そんな訳で昼休み。

 僕は龍子さんの命令を受け、二年生上級生の教室へと忍び込む事となった。


「先輩の教室って、入りづらいんだよなぁ……」


 知らない人ばかりで、浮いてる感じしてしまうし……何より、変な注目浴びてしまうし。

 特に、様子を見る相手が相手だから尚更なんだよね……。

 あーやだなー。

 注目されたくないなぁー。

 龍子さん、自分で行けば良いのに。


「大体人を巻き込み過ぎなんだよなぁー。人使いが荒いというか、竜生使いが荒いというか、幼馴染使いが荒いというか……こっちの予定とか気持ちは丸無視だもんなぁー。本当に、僕の事を何だと思ってるんだろうねぇー。奴隷とでも思ってるのかなぁー?」

「何二年の廊下でボソボソ言ってんだ? 竜生」

「うわっ! ビックリしたっ!!」


 背後に凛太郎さんがいた。

 あまりにもネガティブってたから、声を掛けてくれるまで気が付かなかった。

 いや、気付かなかった理由はネガティブってたからだけではない――


 凛太郎さんから、エネルギーをあまり感じないのだ。


 いつもハチャメチャで豪快で、エネルギーが有り余り過ぎていて、他人にまで影響を及ぼしてしまうような人なのに、今はそれが微塵も感じられない。

 別人かと、思ってしまう程。

 これは相当身体に応えてるな……。


「大丈夫ですか……? 顔色が……」

「大丈夫そうに見えるか?」

「ですよね……」

「俺さぁ、こんな事になって思ったんだよ……」

「何をです?」

「風邪引いたら、こんな感じなんだろうなーって」

「…………風邪とは少し違う気がしますけど」

「そうなのか?」

「いや、分かりませんけど。けれど、とても辛そうなのは分かります。保健室で休んでいた方が、むしろ帰った方が良いんじゃないですか? 家にゴーストドールがあるのが気掛かりなら、僕が龍子さんに鍵貰ってきますけど?」

「いや、帰ったら負けのような気がするから帰らない」

「えぇ……」


 負けって、何に負けるのだろう?


「それに、保健室で休んでも、家に帰っても何の解決にもならないしな……この体調不良、略して体良がゴーストドールの仕業である以上、休んだ所でどうにもならない。しんどいけど、即座にゴーストドールの除霊に向けて動き出すのが一番だ」

「……それは、そうですけど……」


 除霊……嫌な言葉だ。


「動く――といっても、どうするんですか? 相手はゴーストドール……日本中でかなり有名な怪談の一つですよ?」

「そうなんだよなぁ……何か手はないか?」

「他力本願っ!!」


 しかしまぁ、そのしんどそうな身体では脳みそも回らない事だろう。

 うーん……僕にも何か手伝える事ないかなぁ……?

 でも昨日、関わるな的な事言われたような気もするし……動くに動けないんだよなぁ……。


「まぁ……既に、あの三人が動いてはくれているんだがな」

「あ、そうなんですか?」

「ああ……もうすぐを終えて戻って来る筈だ」

「申請?」


 一体何の……?


「丁度良かったよ。竜生、昨日はああ言ったけど、実の所お前には、この案件に参加してもらいたかったからな」

「あ、そうなんですか?」

「実の所、昨日の発言は龍子の前で格好付けたいから言っただけだ。本心では、最初から徹頭徹尾お前には頼るつもりだった。巻き込むつもりだった」

「そ、そこまで……ぶっちゃけなくとも……」


 そっかぁ……最初から巻き込むつもりだったんだぁ……ふーん……似てるねぇ、兄妹って。


「でも、僕なんか役に立ちますかねぇ? 見ての通り、僕は普通の――」

「惚けんな、『冥々スマホ』の件……俺はちゃんと知ってるぞ?」

「っ!!」

「お前は、口止めしてたみたいだけどな……俺のを使えば、そんな秘密情報なんざちょちょいのちょいだよ。俺の情報網を舐めんなよ?」

「あ……アハハ……」


 ぞくりとした。

 あの件に関わった人達には、絶対口外しないようお願いした筈なのに……。

 一体、どんな筋からその情報を……?


 改めて……凄くて怖い人だなぁと思う。


「苦笑いで誤魔化そうたってそうはいかねぇぞ? 他にも情報は仕入れてんだ、『誘いピエロ』の話や、『マタタビ神社の鬼』『切り裂き鎌鼬』『不死川病院の予言カルテ』『理科室カエル』『午前四時の死神』『彷徨う男児』『未来舘の占い水晶』……他には――


 央一家のじば――」

「もういいです! 分かりましたから!」


 説明不要だ……この人には、


 本当に――恐ろしい人だ。


「手伝いますよ。この一件――『ゴーストドール』については、僕が承りました」

「僕が、じゃねぇだろ。で、解決すんだよ」


 凛太郎さんが、そう言った瞬間――


「ああーっ!! おったで!! 竜生おったで!!」

「校内探し回ったんですよー。凛太郎くん、見つけたなら見つけたと連絡をくださいよ」

「ふへー……疲れたよー、ぐぅぅ……むにゃむにゃ……」


 かの三人衆が姿を見せたのだった。


 いつも思う……確かに、妹である龍子さんの……読心術とも呼べる女の勘、も凄いけど…………凛太郎さんのは、また違う異質さがある。

 凛太郎さんこの人――


 未来でも見えているんじゃないか?


 その底知れなさに、僕が少し冷や汗をかいたところで凛太郎さんは、つらそうにしている表情を無理やり動かし、ニヤッと口角を釣り上げる。


「さぁ! 始めようか、『対ゴーストドール会議』を!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る