第6話 宿の主人の話

はい、えぇ、その通りでございます。

血相を変えて、前日から翌日にかけて宿泊頂いた方々が転がりこんできたんです。

それで、死体がある!!

って叫ぶものだから、すぐに、あぁ、また獣の食い残しが出たかなって思ったんです。

たまにね、あるんですよ。

でも、たまに、も続けば慣れてしまいまして。

どんな状態だったかを簡単に聞きました。

事前に聞いておいた方が、調べに来た人への報告とかがスムーズになるんで。

で、聞いてびっくり開けてびっくり宝箱ですよ。

なんと首無し死体で、さらに明らかに殺されたものだって言うじゃないですか。

すぐに下働きの者を使いにやりました。


宿泊された人、ですか?

台帳をお渡しします。

こちらです。


***


【台帳の記載】

※分かりやすいよう、()にて発見者等の記載をしてあります。


〇ラルフ・ボーン(第一発見者、旅人)

〇クレグホーン・パトリジア(第二発見者、商人)

〇ルディ・ウェイ(首無し死体)

〇パーシー・ライデール(ジュリアの夫)

〇ジュリア・ライデール(パーシーの妻)


***


はい、はい。

えぇ、そうです。

死体が発見される前日の夕方のことです。

ルディ様とパーシー様が口論となりました。

それを見たクレグホーン様が、私を呼びに来たんです。

それで仲裁に入りました。

口論の原因、ですか?

たしか、ルディ様がパーシー様の奥様、ジュリア様に声を掛けたことが原因だったらしいです。

えぇ、はい。

人妻と知りつつ、口説こうとしたとのことです。

それを知ったパーシー様が激昂したんだとか。

ルディ様は殴られていました。

パーシー様もです。

一応、手当を申し出たんですけどその時は断られました。

でも、数時間後の夜中にジュリア様から呼ばれました。

パーシー様の殴られた箇所が想像以上に腫れてきたから、手当をしたい、と。

それで救急箱を持って部屋まで行きました。

そしたらジュリア様が出てきて、箱を受け取ると、


「あの、主人が殴った人のことも気がかりです。

そちらにも念の為声をかけてもらっていいですか?」


ジュリア様の部屋は別でした。

基本一人旅の人向けの宿なんです、うち。

だから、受付の時に、こちらからその旨を伝えて、


「ベッドは一部屋にひとつしかないので、別々の部屋になりますがよろしいでしょうか?」


と確認しました。

良い、ということでしたのでそれぞれに部屋の鍵を渡しました。

救急箱を持っていった時の、ジュリア様の様子は、パーシー様の行動を気に病んでいるようでした。

救急箱の予備があるようなら、ルディ様の方にも持って行ってほしい、と言われたんです。

すぐにそうしました。

扉越しにルディ様へ声をかけると、部屋の外へ救急箱を置いておいてくれと言われました。

気がかりではありましたけど、言われた通りにしました。

旅人には気性の荒い人が多いので、こういったこともよくあるんです。

だから、救急箱もいくつか用意してあるんですよ。

いつお客様がチェックアウトしたか、ですか?

それなら、台帳のここに書いてありますよ。

ルディ様は、早朝に出発されてますね。

夜勤の者が手続きしています。

まだ日が明ける前で、この辺だと暗い時間ですね。

夜勤の者の話しだと、包帯で顔をぐるぐる巻きにしていたらしいです。

それから、朝食の後にライデール夫妻。

こちらも、旦那さんの方が、やはり腫れが酷かったのか包帯で顔をぐるぐる巻きにしていました。

その後にボーン様、一時間くらいしてパトリジア様がチェックアウトなさいました。

ルディ様、ボーン様、パトリジア様は徒歩でした。

ライデール夫妻は、馬を一頭連れていて、荷台もありました。

そちらに荷物等を乗せていましたね。

女性は荷物が多いですからね、運ぶのが大変でしたよ。

武器もありましたね。

大剣でした。

短剣も、ありましたね。


あ、はい、これだったと思います。

といっても、武器ってみんな同じに見えちゃうんで。

この短剣が、ライデール夫妻の持っていたものと同じものかかは断言できませんけど。

ルディ様とライデール夫妻の使った部屋で変わったところは無かったか?

ですか?

えー、これ言っていいのかなぁ。

まぁ、その夫婦となると、その夜の営みがあったようで、だいぶ激しく、その、されたようでした。

シーツがぐしゃぐしゃで、その、生々しいあとがありましたね。

部屋こそ別々でしたけど、まぁ、営みが終わったあとに部屋に戻られたのだと思います。

たまに、いますよ。

駆け落ちらしき恋人の宿泊客の後始末でも、同じことがあるので。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る