第7話 とある男性の告白

人を殺した。

生まれて初めて、人を殺した。

許せなかった。

そう、許せなかったんだ。

俺の妻を奪ったから。


……違う、そう、奪おうとしたから。


だから、殺したんだ。

事の顛末は聞いてるんだろ?

そう、そうだ。

その話の通りだよ。

あの男は、妻に声を掛けていた。

それが許せなかった。

妻を侮辱することを口にした。

本気で手篭めにしようとしていた。

だから、殴った。

この時には、殺意は無かった。

怒りはあったが、殺そうなんて思わなかった。

家族を、妻を侮辱されて、奪われっ、……そうになったから。

だから、つい手が出たんだ。


その後だ。

知ってるだろ?

妻と義母にも、話を聞いたんだろ?

そう、俺の怒りは収まらなかった。

たまたまだった。

本当に偶然だった。

まだ薄暗い早朝、俺は目を覚ました。

朝が早いんだ。

それで、ふと部屋の窓から外を見たら、宿を出て桜の木の方へ歩いていく奴の姿があった。

殴って、一旦は収まったと思った怒りがまた湧いてきた。

気づくと俺は、短剣を手に窓から飛び降りて奴を追いかけていた。

奴は、あの立派な桜の木を見ようと道を外れた。

チャンスだと思った。

そう、今ここでアイツを殺せば誰にも見られることはない。

死体は埋めればわからない。

そう、俺の中で悪魔が囁いたんだ。

あとは知っての通りだ。

俺は桜に見とれてるアイツに声をかけて、ブスリと短剣を刺そうとした。

逃げようとしたから、無理やり肩を掴んでこちらを向かせ、心臓に向かってぶっ刺したんだ。

その後、死体を埋めて宿に戻った。

戻った後に、妻に逃げるための時間稼ぎをしようと言われた。


こういう時、女の方が度胸があるって初めて知った。

妻は、とてもそんなことが出来る人間じゃない。

でも、俺にだけ罪を犯させるわけにはいかない。

自分も手を汚す、といって譲らなかった。

そう、それがアイツの首を切り落として、どこの誰かわからなくするってことだったんだ。

宿をチェックアウトして、あの桜の木へ向かった。

その近くに埋めたからな。

意図せず、桜の木が目印になったんだ。


それで埋めた死体を掘り起こした。


あとは、知っての通りだ。

え、なんで死体を埋め直さなかったのか?

太陽も高くなりつつあった。

人通りの少ない裏街道とはいえ、いつ人が桜を見にやってくるかわからない。

だから、埋め直すより逃げる方をとったってだけの話しだ。

首を切った大剣はどこにやったか?


妻の実家の納屋。

その奥にあるよ。


首?

それこそ、あの桜の木のすぐ横の薮の中へ投げ捨てた。

見つからなかったのか?

知らないよ。

それこそ獣が多い場所らしいし、食われたんじゃないのか。

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