第4話 第二発見者 商人の話
いきなり、でした。
はい、突然、あの旅人さん(旅装束の男のこと)の悲鳴が轟きました。
えぇ、響いた、でも、聴こえてきた、でもなく。
まさに轟いた、と言った方が正確な気がします。
とにかくそれだけ、インパクトのある悲鳴だったんです。
なにしろ、ほかの木々に留まっていた鳥たちが一斉に空へと羽ばたいたのですから。
その悲鳴を聞きつけて、僕は悲鳴のしたであろう場所へ走り、あの現場に出くわしたんです。
はい、はい。
その時の現場の様子、ですか?
そう、ですね。
えと、死体の胸に短剣が刺さってました。
それで、頭が切り落とされたのかありませんでした。
あと、ちょっと気になったのが、あれだけの惨状なのに血が少ないかなって思いました。
胸の短剣が刺さってる所もそうだし。
あの場所で首を刎ねたにしては、こう、綺麗だったんです。
どこが、どう、綺麗だったか?
んー、まず、桜の木、幹や枝、咲き誇ってる花弁に血が着いていませんでした。
あと、あの殺された人、死体の服にも血が着いていなかったんです。
おかしいですよね?
普通怪我とかしたら、まぁ、程度の差があるんで絶対とは言いませんけど服に血って付くじゃないですか。
それなのに、服の上から心臓あたりを、胸を一突きにされたところからも血は滲んでいなかったし。
それどころか、首を刎ねられてるのに襟の部分にも血が無かったんですよ。
そういう意味で、桜の木も服も、とても綺麗でした。
あ、あといま思い出したんですけど。
あの死体の人の服、どっかで見たことあるなぁって思ってたんです。
実は、昨日の昼に同じ宿に泊まってた人、その一人に似てる気がするんです。
ただ、覚えてるのは服だけで顔までは覚えていないんですけど。
あ、そうだ、同じ宿に泊まってた夫婦がいたんです。
その旦那さんの方と口論してました。
宿の廊下で口論してて、僕としては関わりたくなかったのですぐ宿の主人を呼んで仲裁してもらいました。
僕はさっさと部屋に引っ込みました。
あ、はい、悲鳴をあげた人、第一発見者って言うんですか?
あの人も同じ宿に泊まっていましたよ。
まぁ、これも服装で、
「あ、同じ宿に泊まってた人だ」
って思ったってだけの話なんですけど。
宿の部屋数が、五部屋、泊まってた人数も五人で。
そうそう、宿の主人が、
「珍しいこともあるもんだ」
って呟いたから、なんのこっちゃって思って聞いたんです。
そしたら、
「こんな場所でしょ?
部屋が全部埋まるなんて珍しいって思ってね」
って言ったんです。
泊まってた人、ですか?
僕、第一発見者の人、被害者、そして夫婦。
この五人です。
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