第3話 とある女性の懺悔話

神様。

神様。

どうぞお許しください。

夫をお許しください。

夫は人を殺めました。

私を守るためでした。


あの朝、夫は私に声をかけてきた男性に対しての怒りがおさまらず、まるで逃げるかのように宿を出た彼を追いかけました。

こっそりと宿を出たんです。

窓からでした。

器用に壁を伝って着地すると、夫は彼を追いかけました。

そして、殺したのです。

彼を殺したのです。

胸を短剣で一突きしたのだそうです。

戻ってきた夫は、そう言いました。

そして、捕まったら縛り首だから逃げようと云いました。

私としても、夫が捕まったら生きて行けません。

なので、私の故郷まで逃げることにしたのです。

すぐに故郷の母へ手紙を出しました。

本当のことは言えませんから、夫が仕事を解雇されたのでそちらで同居しつつ、仕事を探すことにした、と嘘をつきました。

でも、その前に気がかりがありました。

夫が殺してしまった、彼。

彼の死体です。

埋めたのだろうか、そうでなくてもどこかに隠して来たのだろうか、と気になったのです。

もし、死体が見つかってしまえば大事です。

夫に尋ねると、桜の木の下に埋めたと言うではありませんか。

宿からも見える、立派な桜の木。

その木の下に埋めたというのです。

もし、獣に掘り返されでもしたら大変です。

だから、少しでも発見された時のことを考えて、捜査の手が私たちに及ぶ時間を稼ごうとしたのです。

えぇ、私は夫と共に早朝、宿を出ました。

そして、夫が死体を埋めたという桜の木があるあの場所へ行ったのです。

死体は、幸い掘り起こされてはいませんでした。

なので、夫ともに掘り起こし、どこの誰かわからないように護身用にと持っていた大剣で、彼の首を切り落としました。

わざわざ埋めなくても、これで大丈夫だろうと考えたのです。

首を切り落としたのは、夫でした。

夫だけに罪を背負わせてはいけない、と最初は私がやるつもりでした。

けれど、女の力では大剣を振るうことは叶いませんでした。


あぁ、今さらながら思うのです。

なぜ、あのような悪魔がごとき所業が出来たのか。

私でも不思議なのです。


でも、結局耐えられなかった。

だからこの場で、罪を告白しているのです。


母は帰ってきた私たちを受け入れてくれました。

母と夫は、結婚式の時にあったっきりでしたけど。

それでも、義理の息子の帰郷を喜んでくれました。


あぁ、どうか神様。

この幸せが永く続きますように。

夫は私を守ってくれた、それだけなのです。

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