第2話 第一発見者 旅装束の男の話

***


いえね、立派な桜だったもんでちょっと見ていこうと思ったんですよ。

それが運の尽きでした。

まさか、あんな恐ろしいものを見つけてしまうなんて。

首は転がってなかったか?

わかりません。

なにしろ、気が動転してて。

俺の叫び声を聞きつけて、あの商人さんが来てくれて。

それでもう、情けない醜態を晒したんです。

腰は抜けてたし、でも怖くて怖くて、なんとか商人さんの助けを借りつつ宿に駆け込んだんです。

二人とも徒歩でした。

幸いだったのは、こんな裏街道でも旅人がいるからか道楽半分でやってる宿があったことですね。

しかも、あの恐ろしい現場から近かった。

そういえば、あの宿の主人、なんか慣れてたなぁ。

あぁ、通報が手馴れてたなって。

え?

あ、なるほど。

遭難者とか、獣に襲われた死体がたまに出るんですね。

それで慣れてたと。


はい、はい。

えぇ、街道から少し逸れて木々のなかに分け入っていくと、あの桜の木のとこに行けるようになってました。

たぶん、ほかの旅人も同じように花見ついでに寄っていったんでしょう、草が踏みつけられて道になってました。

え、えー、それ答えなきゃいけないですか?

うぅ、思い出すの嫌だなぁ。

でも、そうですね。

争ったような感じは無かったです。

なんとなく、ですけど。

それと、なんか首を斬られたにしては血の量が少ない気がしました。

いえ、あんな恐ろしい現場は初めて見ましたから。

たしかなことは言えませんけど。

ただ、もう少し血がドバっと出てもいいと思うんですよ。

けど、桜の木にもほとんど血がついていませんでした。

えぇ、首を落としたっぽい凶器も見ていません。

先程も云いましたが、首もみていません。

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