六月といちじく
六月というものはたいへん慎ましい月であります。
ひとびとを喜ばせる祝日もなく、これといった行事もありません。
五月に泳ぐ鯉のぼりも、七月にそよぐ笹の葉もありません。
六月というものは
重たい梅雨前線を背にかかえ、鈍色の雲の下に突っ立っております。
六月というものは
おまえたちだけで楽しみなさいと云って、楽しげなお祭りをほかの月たちに譲ってしまいました。
六月というものは
へそのあたりに夏至をかかえて、大切に大切に守っています。
それでいて、夏という素敵な季節の代表は、七月や八月におまかせします。
六月というものは、六月というものはほんとうに
好かれもせず嫌われもせずに、一年のちょうど真ん中にぽつんとあるのです。
だけれども六月がさびしくないのは
六月のそばにいちじくが寄り添っているためです。
いちじくは六月に似てたいへん慎ましいので、きっとよく気が合うのでしょう。
いちじくの実がふっくらとなり、赤すぎない赤に色づくまで
六月は毎日まいにち庭におりて、いちじくの木を見上げているのです。
今日はもう熟れたかい。
いや、まだまだ。もう少し。
六月が手を伸ばし、やわらかないちじくの実をもぎ取ると、
まもなく梅雨が終わります。
六月というものは
そういう、ほんとうに慎ましい月なのです。
テーマ:②6月
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます