六月といちじく


 六月というものはたいへん慎ましい月であります。


 ひとびとを喜ばせる祝日もなく、これといった行事もありません。

 五月に泳ぐ鯉のぼりも、七月にそよぐ笹の葉もありません。

 六月というものは

 重たい梅雨前線を背にかかえ、鈍色の雲の下に突っ立っております。

 六月というものは

 おまえたちだけで楽しみなさいと云って、楽しげなお祭りをほかの月たちに譲ってしまいました。

 六月というものは

 へそのあたりに夏至をかかえて、大切に大切に守っています。

 それでいて、夏という素敵な季節の代表は、七月や八月におまかせします。

 六月というものは、六月というものはほんとうに

 好かれもせず嫌われもせずに、一年のちょうど真ん中にぽつんとあるのです。


 だけれども六月がさびしくないのは

 六月のそばにいちじくが寄り添っているためです。

 いちじくは六月に似てたいへん慎ましいので、きっとよく気が合うのでしょう。

 いちじくの実がふっくらとなり、赤すぎない赤に色づくまで

 六月は毎日まいにち庭におりて、いちじくの木を見上げているのです。

 今日はもう熟れたかい。

 いや、まだまだ。もう少し。

 六月が手を伸ばし、やわらかないちじくの実をもぎ取ると、

 まもなく梅雨が終わります。

 六月というものは

 そういう、ほんとうに慎ましい月なのです。



テーマ:②6月

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