さまよう指の標本箱

深見萩緒

夜のなきがら


 夜明けの光がさしこんだとき 夜はまだ生きておりました。

 カーディガンを羽織った私の肩に頭をもたれて

 ねえおまえ、私は死ぬよ と。

 私はなんと答えて良いのか分からず

 死なないでとも云えませんでした。


 なぜならば多くの人にとって夜明けとは喜ばしいことであり

 希望の象徴でもあるのですから

 私は夜の死を抱きとめるしかなく

 肩に感じる夜の重みにてのひらをあてて

 夜が泣き止むまで撫でてやるしかないのです。


 夜の肌寒さが朝の涼しさへ変わるころ

 ようやく夜は泣きやみました。

 心配ありません。

 夜のなきがらはミルクにとかして

 私がぜんぶ飲んでしまいました。


 ですからみなさんはなにも恐れずに

 朝を

 朝の涼しさを

 肺いっぱいに吸い込んだって良いのです。

 なにも後ろめたくおもうことはありません。

 夜は私が看取りましたから。



テーマ:①涼しい

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