第5話
補給部隊が編成され、前線へと向かう。アレックスは戦闘班として輸送を行う馬車の後方へ配置されていた。班は6人で構成されており、短期間の訓練にも関わらず、士気は高く連携も取れていた。
「ねぇ、アレックス。貴方がそんなに強いのってやっぱり魔物の肉なの?」
「どうだろうなぁ…うちの村は食えるなら魔物でもなんでも食ってたからなぁ…」
「魔物の肉には毒性があって食用には向いてないって話だけど、そう聞くと信じ難いわね…村全体で食中毒が起きていない…そして超人のような怪力…やっぱり魔物の肉には何か秘密があるのかしら…でもそれなら王国内で研究が行われているはずだけれど…」
「おーいコユキ!置いてかれるぞ!」
「あっ!今行く!」
魔物は通常生息する動植物に比べ圧倒的に強靭な肉体を持っており、その強さに対抗するために人類は武器を開発した。その際に魔物の爪や牙などを加工して鋭利な刃物などにしているが、魔物自体の肉は食用とされていない。毒性がある、人間を食ったものを食べたくないなどの理由はあるが、何よりも…
「魔物の肉は不味いんだよなぁ…」
「そんなに不味いの?スパイスとかあるじゃない。王国内で栽培に成功して安価に取引できるようになってだいぶ経つわよ?」
「いや…そんなレベルの不味さじゃないんだ…なんというか…そう、今馬が落としたやつみたいな…」
「なんでそんなもの食べるの!?馬鹿じゃないの!?」
「いや、自分の家の壁食べるか魔物の肉食べるかってなったら肉だろ?」
「…でも○○○なんでしょ…?」
「うん」
「貴方の村を尊敬するわ…本当に…実家に援助してもらえるよう話してみようかしら」
「大丈夫じゃねぇかなぁ、村の奴らももう随分慣れてるし、比較的味のマシな魔物取れた時はみんなで分け合ったぜ?」
「そのひどい食環境を少しでも改善したいのよ!もう!」
「マシなのは○○○じゃなくて耳垢みたいな…」
「やめてそういう情報は知りたくないわ」
「お、おう」
「それより、そろそろ前線基地に着きそうよ」
幸運にも道中魔物と遭遇することもなく、補給部隊は基地へ到着した。基地へ補給物資を積み終えるとしばし休憩となった。
「前線基地なのに魔物と遭遇しないなんてなんだか不思議ね」
「ちょっと聞いたところだと最近になって魔物の襲撃が減ってきてるんだとさ。何故かは分からんらしいが」
「嵐の前の静けさ…じゃないといいわね」
「おーい!アレックス!こっちこいこっち!そこの嬢ちゃんも!」
「ジェームズ隊長!どうしたんですか!」
アレックスが以前出会った国軍の兵、ジェームズ・モイヴは今回の補給任務の隊長を任されていた。そしてそのジェームズはというと、
「ここの基地の偉いのに俺の同期がいてよ、酒は流石にあれだが、肉!魚!スパイス!よりどりみどりのバイキングだぜ!」
「補給したその日にそんなに食べていいんですか…?」
「なぁに、士気向上の為って言っとけばお偉いさん方も悪い顔はしねぇさ!」
「ジェームズ!ありがとな!」
「いいってことよ!お前には期待してんだぜ!たっぷり食え!」
「上官に対する態度じゃないし…隊長も隊長だし…はぁ…」
項垂れるコユキ。そこへ向かっていく同じ班のメンバー。
「コーユキちゃん!」
「わっ!…びっくりしたぁ…やめてよレナったら」
「隊長がバイキングするって話聞いて来ちゃった!」
「僕らもご一緒してもいいですか?」
「おう、いいぞ!他の奴らも呼んでこい!」
「ありがとうございます!」
そこからは前線の暗く張り詰めた雰囲気を吹き飛ばすように宴が始まった。もちろん警戒は怠らないように見張は交代で。
夜が更けていく そして嵐が来る
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