第4話

 朝早く起き、身支度を整えて瞑想をしていると、招集の合図が鳴る。新規兵は軍本部の中央にある訓練場に集合とのことで、剣を帯に携え向かう。

訓練場に向かうとまだぽつりぽつりと人が見える程度であった。まだ朝食さえ済ませていなかったのだろう、少し乱れた服装の者もいる。男に比べると少ないが女の新規兵もいるようだ。魔物との戦いでは魔法の優れた者であれば女であろうが戦力となる。やはり人類は追い詰められているのだな、と改めて実感した。

女兵の中に目を引く銀髪の兵がいた。身だしなみはきっちりとしており、どこぞの名のある家のものだろう紋章が胸に縫われている。お、こっちを向いた。

「…さっきからこっちを観察するように不躾な視線を感じたのだけれど、貴方かしら?」

「気分を害したならすまないな、これから一緒に戦う奴らの様子を見ておきたくてな」

「あら、いやらしい理由かと思ったら意外とまともね」

「あとはお前の髪が綺麗だったからつい見つめてしまった」

「…ふーん、感心して損した。ただの軟派男か」

「?別に性的行為を目的に見つめていたわけじゃないんだが…」

「性っ…!貴方!もう少し言葉を選んだほうがいいわよ!女だからって私を下に見てるつもり!?」

「???すまない…言葉の意味がよくわからん…別に女だから下に見るとかはないんだが…」

「はぁーっ…なんなのこの人…礼儀というか物知らずというか…」

「???」

新規兵が徐々に集まってきた。階級の高そうな男が台に立ち、点呼をとる。

「…ふむ、全員の集合を確認!これより任命式を行う!」

男の話を総括するとこうだ。現在王国領と魔物の支配下にある地の境目、魔物との戦いの集中する前線。そこへの補給任務が俺たちの仕事らしい。

真面目そうな新規兵が手を挙げ質問をする。

「補給任務とのことですが、魔物との戦闘は我々が行うのでしょうか?十分な訓練をまだ積めていないように思えます!」

「そこは安心しろ…と言いたいところだが、魔物との戦いでは不確定要素が多い。道中襲われる可能性も否定できん。ので、これより1週間ほど訓練期間を設ける。そこで戦闘に備える者、補給を安全に行う者と班分けをおこなっていく予定だ。」

「了解しました!ありがとうございます!」

手を挙げる。

「補給任務ってことは馬車を使うのか?」

「無論そうだが…何かあるのかね?」

「俺は馬車に乗れない」

ドッと笑いが起きる。乗れないものは乗れないんだがな…

「コホン!静粛に!…あー、君には戦闘班に行ってもらおうか。名前を教えてもらえるか?」

「アレックス。アレックス・インフェルノだ」

「おい、記録しておけ。あいわかった。他にはないかね?」

「ない。だが今笑ったやつを戦闘訓練で優先的に組んでもらっていいか?」

「はっはっは!いいともいいとも!汚名返上大歓迎だ!」

男の後方にいる兵が慌てている。よく見ると昨日の先輩兵のようだ。何か訴えているようだが逆に一喝されてしまっている。便所にでも行きたかったのか?

「では他になければ任命式を終わりとする!各自、上官の指示に従い訓練を行うように!」

解散と共にさっき笑っていた奴らがこっちにきた。

「そんなデカいタッパしてんのに馬車にも乗れないのかよ!魔物と戦うなんてできんのかよ!」

「馬車と魔物は関係ないと思うんだが…まあいいか、このまま戦闘訓練をしてもいいのか上官!?」

許可が出たので構えを取る。

「その鼻っつらへし折ってやる!お前を踏み台にして昇進してやるぜ!」

「そんな心で戦いに臨むつもりか…」

なんだか腹が立ってきた。馬車に乗れないのを笑われたのはこの際どうでもいい。その根性が気に食わない。

「かかってこいよ!鼻垂りゅぶべぇあ!!!」

剣は使うに値しない。拳で顎を捉え、そのまま空へ打ち上げる。落ちてきたところを蹴り飛ばす。ピクピクと動いている。意外と丈夫だなアイツ。

「く、訓練一時止め!救護班!」

「嘘だろ…?あの王国剣術三段のアンドリュー君が?」

「えげつない吹っ飛び方してた…あれ生きてる?」

「おい」

「ヒィッ!!馬車のことは申し訳ありませんでしたァ!!」

「そんなことはどうでもいい!お前達はみんな出世するとか相手を下に見ることしか考えていないのか!?」

「い…いや、そんなことは…」

「魔物との戦いで一番重要なのは生きる意志だ!これからを作っていくための強い心だ!それがなくて何が軍だ!」

新規兵の殆どが気圧される中、銀髪の女兵は頷いていた。

「よし決めた!俺がお前達を指導してやる!まずその腐った性根を叩き直す!」

息を荒げのしのしと兵達に向かっていくと先輩兵と上官10人がかりで止められた。

「わかったわかった!君の言いたいことはわかった!力強い!もっと抑えろ!」

「ダメです!コイツ昨日ヘンリーさんをボコボコにしてたんですよ!もっと人が必要です!あー!やめよう!お願い!」

「それは期待の新人!だが!今は止めなければ!おい!もっと人集めろ!」

結局30人かけて止められた。

上官からはしっかりと教育を行なっていくと言われ、他の新規兵からも謝罪を受けたため、渋々納得した。渋々。

銀髪の女兵が話しかけてきた。

「貴方、すごいわね。最初はただの礼儀知らずだと思っていたけど改めるわ。私はコユキ。コユキ・フローゼ。よろしくね」

「アレックスだ、まあなんだ、よろしく」

そこからは比較的穏やかに訓練期間を過ごした。他の新規兵から相談を受けたり、また絡んできたアイツをぶっ飛ばしたり、先輩兵3人と乱取りをしたり、なかなか充実していた。

そして補給任務の時が来た。

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