第2話

 王都までの道のりはさほど苦労しなかった。陽が落ちるまでは歩き続け、夜になれば火を焚き眠る。魔物が現れれば殺し、誰かが困っていれば助ける。そんなことを続けて5日ほどで王都にたどり着いた。

「やっぱ王都ともなると活気があっていいな!…さてまずは腹ごなしだ、飯屋を探そう」

野営中は魔物の肉くらいしかまともなものは食べていない。魔物の肉には毒があるだかなんだかいう話を聞いたことがあるが、俺の村で魔物を食べていない人間はいない。みんな生きるのに必死だからだ。生きるために殺すし、生きるために食う。だからその日を精一杯生きて、悔いのないようにするよう昔からよく言われた。

「ここにするか」

大通りから少し外れたところに酒場があった。地獄の窯亭というらしい。中を見るとなかなか賑わっていた。

「いらっしゃい!1人かい?生憎予約が入ってて相席になっちゃうけど」

「構わねぇよ、冷えた水と腹にたまるオススメのものをくれないか?」

「はいよ!ちなみにあんたも徴兵されたクチかい?大変だねぇ」

「あぁ、ノーキンから歩いてきた」

「ノーキン!?あの鬼が住むとか龍殺しがいるとかいうあのノーキン!?」

「鬼はいないが」

「龍殺しはいるのね…!?」

「龍はお伽噺のもんだろ?そんな大した村じゃねぇよ」

「やっぱり噂は噂なんだねぇ…料理待っててね!」

いそいそと厨房へ戻っていく。相席になった男が話しかけてきた。

「あんた、ノーキンから来たんだって?随分遠いだろあそこ。歩いてくるのは随分と骨だったんじゃないか?」

「まぁな。ここまでくるのに5日もかかっちまったよ」

「…冗談がうまいなあんた!普通は徒歩ならどれだけ急いでも1ヶ月はかかるぜ!」

「冗談じゃないんだがなぁ…」

「マジに言ってんのか…やっぱりノーキンの奴はやべぇな」

「そんなにうちの村って評判悪いのか?」

「悪いも何も、この時代、あんな辺境の村でまだ名前が残ってる時点でまずとんでもない。魔物の襲われて消えちまう街だってあるんだぜ?」

「そりゃあ頑張って死なないようにしてるだけだ、大したことはしてない」

「…案外あんたみたいなのが戦場で功を立てるのかもしれんな。俺はジェームズ。ジェームズ・モイヴだ。去年から軍にいるぜ」

「アレックス・インフェルノだ。よろしく頼む、先輩」

「見るからに強い奴に先輩って言われるとなんかむず痒くなるな…」

「俺は大したことないぞ?」

「…ハハッ…お、飯が来たみたいだぞ」

山盛りの肉と野菜、付け合わせのパンが出てきた。美味そうだ。

「いただきます!」

噛むたびに肉汁が溢れる。野菜も旨味があって肉と合わせることでハーモニーを奏でている。村ではこんな豪勢なものは祭りの時ぐらいしか食べられなかったな。やはり王都は物流もいいのだろう。ものの数分で食べ終わるとおかわりを注文する。

「いい食いっぷりだなぁ…胸焼けがしちまうよ」

「ここのところまともな飯を食ってなかったからな。久しぶりに人間らしい食事をしてるな」

「何を食べていたのかは聞かないでおくぜ…」

「知りたいのか?蛇とか狐とかのまも…」

「あー!やめろやめろ!常識が狂う!後で案内する時に聞くから食事中にその話はやめろ!」

「???わかった」

誰かと話しながら食べるのは久しぶりで、なんだか楽しい気分だ。飯屋を出る頃には夕暮れ時だった。

「明日、広場にある銅像の前で待ち合わせだ。徴兵された奴らのための宿があっちの方にあるからそこで今日は休め。」

「助かる。じゃあまた明日」

手を振りジェームズと別れる。宿に事情を話すとすぐに空き部屋を用意してくれた。やはり都会はサービスがいい。うちの村の受付はまともに掃除すらしないからな。軽く体を水拭きしてからベッドに横になる。明日が楽しみだ。

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