SAGA1章

下痢仮面

第1話

 よくあるお伽噺。子供に寝物語に読み聞かせるようなものだ。この世界は大きな大きな龍が作ったという。始めに命を創り、生きるための大地と海を創った。命は形を変えて、互いに支え、傷つけあい、何かを得て、失っていく。ある時人と魔物が生まれた。人は闘うための牙や爪はないが、武器を造る智慧を持っていた。魔物は鋭い爪や牙を持ち、この地に生きるどんな生き物より強かった。人と魔物は争うが、徐々に人が追い詰められていった。ある時人の中に天才が生まれた。天才は龍の理を解き明かし、魔物と闘う術を広めた。倒した魔物の牙で剣を作り、毛皮で鎧を作った。力をつけた人は魔物を押し退け、この地を統べた。しかし、魔物が追い詰められると、魔物たちの王が現れ、ばらばらであった魔物たちをまとめた。そうして人と魔物は常に争い合うようになったのだ。


 手紙が届いた。軍からの徴兵命令らしい。

「1週間以内に王都セントラルの国軍へ参上されたし…か、まぁ最近は物騒になってきたし、そろそろかとは思ってたけどな」

返り血のついた外套をハンガーにかけ、椅子に座り剣の手入れを行う。

「生きるためにやることは変わらねぇな。少しばかり数が増えるだけだ」

今朝も村の外で狩りをして、魔物と鉢合わせて殺し合いになった。大陸の南の端の辺鄙なこの村でさえこれならば、今の時代、この大陸全てが戦場と言ってもいいぐらいだ。

魔物の王、魔王によって人間は窮地に立たされている。国は何十年もかけて砦や防壁を作って魔物との決戦に常に備えている、らしい。正直なところ、全ての魔物に対して有効なものなど存在しない。結局のところ、殺すか殺されるしかない。だからお伽噺のような天才や勇者を求めるのだろう。どうにもならない現状を打破するために、この国全ての戦えるものを集めているのだ、と村で一番長生きなジジイが言っていた。

「つっても俺は天才なんかじゃねぇしな、少しばかり腕っ節が強いだけだし。親父に比べりゃ棒にもかからねぇよ」

手入れを終えた剣を片付ける。親父は村で一番強かった。魔物と見ればいの一番に駆けつけて殴り殺していた。ある時、誕生日プレゼントだ、なんて言ってこの剣を持って帰ってきた。俺の生まれたのは冬で、その日は夏だったが、あんまりに親父が嬉しそうにしていたので何も言えなかった。その日の夜、親父はどこかへ消えてしまった。母ちゃんは何も言わなかった。

「準備はこんなもんでいいか。家は空けといても盗るもんもねぇしな」

母ちゃんは2年前に流行り病に罹って死んだ。その時に家財はほとんど売りに出してしまった。医者がヤブじゃなかったことが救いか。暖炉の火を入念に消して、家を出る。王都までの道は馬車は通っているが、俺は馬車が嫌いだ。吐き気が止まらなくなる。歩いて行けば1ヶ月かかるらしいが、親父は3日で行って帰ってきた。

「ひとっ走りしていきゃあいい感じにつくだろ!」

軽く何回か跳ねた後、大きく駆け出す。土煙が舞い、獣が音に怯えて逃げ出す。彼はアレックス・インフェルノ。後に魔王を斃す1人である。

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