第9話

ダンジョンの情報収集はイヴさんのまとめていた資料ですぐに終わった。


資料を読み込んだ結果、ダンジョン共通の特性としてダンジョンはこちらの世界とは違う異世界であるということが前提となる。


異世界の根拠としてあげられる一つが出入り口以外からの侵入や脱出が出来ないという。例えば、地下に広がるタイプのダンジョンを地上から土を掘って侵入しようとしても掘っても掘ってもダンジョンには突き当らない。逆にダンジョンに入って、壁を破壊して脱出しようとしてもどんな方法をとっても傷一つつかないそうだ。


ダンジョンの自由な出入りや移動は可能ならばダンジョン攻略の大きなメリットになるため大規模から小規模なものまで何度も行われたそうだが現在まで成果は上がっていない。


その他にもダンジョン毎に独自のルールが存在したり、建物の中に青空が広がる場所があったり、常に雪が積もっているダンジョンがあったり『異世界だから仕方がない』とまともに考えることを放棄したくなる事柄が普通にあるそうだ。


そのような様々なダンジョンの中イエンのダンジョンは独立型に分類されるダンジョンである。独立型は入り口からパーティー毎に転移する。転移した先のダンジョンには転移したパーティーのみで先に入ったパーティーとはや後から入るパーティーとは遭遇できず、『同じ構造の別のダンジョン』に転移していると考えられている。


独立型のメリットとしてはダンジョン内で冒険者同士のいざこざが発生しないこと。デメリットとしては、ダンジョン内でトラブルが発生しても外からの救援は絶対にないことなどが挙げられる。


他パーティーを気にしないでいいことから冒険者レベルに関係なく独立型は人気がそこそこあるらしい。自分も実情や性格的な面も含めて独立型はかなり助かる。


ただし、問題点もある。


それは魔物の素材が収集できない。死体が2,3分程度で消えてなくなるのである。急いで解体してもすぐに消えてしまうし、人間でもダンジョン内で死ぬと分解されてしまう。これはダンジョンに吸収されているという説が主流であり、基本的には独立型のダンジョンに限らずこのようなところが多いらしい。


代わりと言っていいのか分からないが、そんなダンジョンではたまに魔石が落ちるらしい。


魔石は倒した魔物に対応していて、それを冒険者組合の独自の技術で利用可能なエネルギーに変換しているらしい。なので魔石は冒険者組合に持ち込めばお金にはなるがどうしても魔石のドロップ率が収入に直結しているため金銭面で不安定となる。


金銭面の不安はかなり問題となる。レンという扶養家族が出来たので猶更である。解決策としてはダンジョンでの収入で足りない分は街の外で確実な収入となる一角ウサギを狩って補うことでよしとしよう。


個人的な目標を考えると少しづつでもダンジョンには挑戦したい。




そんなこんなでダンジョンアタック記念する一回目。


大きな建物の中にイエンのダンジョンの入り口はある。建物はダンジョンということではなく入り口を管理するためにこの街の領主が建てたものだ。


建物の中には入退の管理をしている兵士が配置されているがダンジョンへの入場料の類はとっているわけではない。ダンジョンから得た物品の強制買い取りや税金等もないらしいのでどうやって利益をだしているか疑問だったがイヴさん曰く、冒険者組合からはそれなりに徴収しているので冒険者個人からは取らなくてもやっていけるらしい。


そういうわけで遠慮なく建物に入る。内部は思っていた以上に広々としており、清潔感もある。そして、冒険者や兵士など人数もそれなりにいる。


ダンジョンそのものを守っているのか、ダンジョンの魔物に備えているのかは分からないが防衛する意思を感じる作りである。


受付と思われるカウンターに近づくと兵士に氏名を問われる。ここで冒険者の入退出を管理しているようで帰還した際にもここに来るようにと言われる。


「あれが入口だ」


受付でのやり取りで初回ということを察したのだろう。案内で兵士がダンジョンへの入口を指さす。


受付を行ったカウンターの反対側の壁に鉄格子の扉が一つ。


「あの扉の横のボタンを押したら鉄格子が開く。中に入ったら下を指したボタンを押せ。そしたら鉄格子の扉が閉まる。その後、部屋が動き出して下に降りていく。その時にビビッて暴れるなよ。しばらくしたら止まって扉が開くからすぐに降りろ。ぐずぐずしていたらまた扉が閉まってここに戻って来るからな」


兵士の説明を聞いた感想はエレベーター。扉の前に立ったときの感想はエレベーター。ボタンを押して横にスライドした鉄格子の扉から入り込んで内部を見た感想もエレベーター。


慣れ親しんだ装置なのはありがたいのだが今まで見てきた文明レベルと異なるところや創作物のホラー物やパニック物が脳裏をよぎり少し警戒してしまう。


思っていたより中は広く、重装備の男が5人ぐらいなら乗れそうである。ただ、側面どころか上も下も金網で出来ているので安心感は皆無である。


「ユウジ。これ大丈夫だよな?」


「ダンジョンは壊れない、というか壊せないらしいから大丈夫だ」


自分の内心をおくびにも出さずレンに返答する。レンは結構、慎重……というかビビりというかそういう所がある。わざわざ不安を煽る意味はない。一応、保護者なのだから。


「ボタン押すぞ」


下に向かうボタンを押すと兵士の言葉通り扉が閉まる。始まる前からビビッてしまったがいよいよ、ダンジョン探索だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

この世界でいきていこう 三文茶筆 @sanmontyafude

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ