第7話
宿屋の裏庭。いつもは洗濯物が干されているそこでレンが縄跳びをしているのを眺めている。
「19、20、21」
レンが跳んだ回数を数えながら軽快に縄跳びをしている。読み書き、計算を教える前段階として基礎テストをしたところ数を数える時につっかえることがあった。
算数を身に付けるにはとにかく慣れることだ。縄跳びで体を鍛えながら回数を数えれば一石二鳥。ただ、縄跳びで体を鍛えるという結果に至るまでには紆余曲折があった。
子供のうちに筋肉をつけるのはあまり良くないと聞いた気がする。なので、筋肉をつける筋トレは当然無し。次に考えたのが体力をつけること。これなら、子供のうちから始めても問題はないだろう。
それなら体力をつけるが一番いい。体力があれば死ににくなるし、鍛錬も体力があればそれだけ多くできる。
体力をつけるにはランニングと、安易に考えたのだが残念ながら子供一人で街中を走らせるには治安に不安が残る。住人の話では国王の方針で街の中の治安はかなりいいらしいのだが、何と比較していいのかが分からないので、万が一も含めてランニングは没にした。
一応、俺も一緒にランニングすることを考えたが中年と少女が走っている光景を思い浮かべるとアウト判定となる。中年男性が少女を追いかけるとか誰が見ても犯罪そのものである。
そこで思い浮かんだのが縄跳びだった。体力もつくし、ジャンプするんだから体幹も鍛えられるだろう。
「33、34、35」
これまでの生活でレンの勉強もかなり成長している。100までなら間違わないで数えられるようになった。読み書きも読みの部分はある程度出来ていたので文字を書けるようになるのも時間はかからないだろう。あとは、引き算、足し算、掛け算、割り算の四則演算を教えれば現状は十分だろう。
魔物との戦闘も成長している。最初から生き物を殺す覚悟は出来ていたようだ。萎縮して動けなかったり、攻撃を躊躇することは無かった。ただ、焦りすぎて攻撃を外したり、刺す場所が悪くて一撃で殺せないなどのハプニングが何度もあった。
それでも、諦めずに繰り返した結果、攻撃を外すことは無くなり、ほとんどの場合一撃で仕留めることが出来るようになった。これでレベルが上がれば一角ウサギの突進を防ぎ、倒すことが一人で出来るようになるだろう。
「64、65、66」
と、レンに関しては順調ではある。だが、一つ問題が発生している。
残金が心もとない。
レンの衣食住全てを支払ってもウサギ狩りの戦果が上回るのだがレンの装備や生活必需品など想定以上にかかってしまった結果だ。ダンドンの伝手とアドバイスがなければ完全に足が出ていた。
このままの生活を続けていても収支はプラスな上にレベルが上がれば安全度も上がる。焦る必要は皆無なのだが……。
街の外での狩りではこれ以上の収入は望めない。外で一番稼げる相手で一番数が多いのが一角ウサギである。ただし、多いといっても一時間に一匹遭遇する程度だ。強くなっても安全度は上がるが討伐できる数は多くはならない。
少々早いがダンジョン探索も視野に入れなくてはならないかもしれない。一角ウサギを相手にするのなら儲けに変化はないかもしれないが強くなってより強い敵を相手にすれば儲けもよくなるだろう。
そもそも、俺の目標はイエンダンジョンの最下部にある。
それならさっさとダンジョンに挑むのが正解だと思う。ただ、それでレンの安全が確保できる不安が残る。
思考が堂々巡りしている。決めることがなかなか出来ない。それなら、本人に聞くのも一つの手段か。
「近いうちにダンジョンにも行ってみようと思うがどうだ?」
「俺も行っていいの?」
縄跳びをやめて、こちらを向きレンが返答する。
そうか。レンを留守番にするという選択肢もあるな。そもそも、ダンジョンの情報は大雑把にしか知らないし、もう一歩踏み込んだ情報が必要か……。
「レンはダンジョンについて何か知ってるか?」
「お金を稼ぐならダンジョンの浅い階層より外の方が稼げるらしいから……」
気まずそうに答えるが答えになっていないが知らないっぽい。以前のレンの状況ならお金を稼ぐのを優先するのは当然の選択だ。気にしなくていいと思う。
ただ、浅い階層は稼げないらしいとうことは分かった。相談は大切だと改めて思う。更なる相談を行うのなら冒険者組合が最適であろう。
「ダンジョンにレンを連れていくかどうかを考えるにもダンジョンについて調べてからにしょうと思う。調べるためにも組合に行くけどレンも行くか?」
「うーん。いいや。いきなり話かけて来たから何回跳んだかわかんなくなっちゃったし、もうちょい縄跳びしたいし」
「わかった。そこまで遅くはならないと思うが夕飯までに帰ってこなかったら先に食べといていいからな」
体を動かすことを好むレンではあるが予想以上に縄跳びにはまっているようだ。情報収集は大切ではあるがせっかく楽しんでいるのだから次の機会でいいだろう。……帰ってきたら片足跳びや二重跳びなど見せると喜んでくれるかもしれない。
それを想像するとレンの反応までもが思い浮かびほっこりする。冒険者組合へと向かった。
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