第6話

「仲間になったんだからこれからのことについて確認していこう。まずは魔物退治についてだが場所は街の外で一角ウサギを狙って戦ってる。時間帯は朝から昼まで。どんなに遅くなっても日が傾く前に帰るようにしてる。一緒に狩りに行くとなると朝は早くなるとおもうけど大丈夫か?」


「俺も一緒に狩りに行っていいの?」


「もちろん。少しづつでもいいから戦闘に慣れないとダメだから荷物持ちだけじゃなくて魔物とも戦ってもらう。まずは、俺が転がした一角ウサギにレンが攻撃をするとかはどうだ?」


「朝は頑張る。ウサギと戦うのはありがと。強くなりたいから助かる。……あ、その前にこれで武器を買おうと思ったんだけど」


レンが首から下げた紐を引っ張って、服の中から財布を取り出す。そして、中身を全てテーブルの上に広げる。


以前に報酬として渡した銅貨を考えるとかなりの枚数になる。衣食住をかなり切り詰めているのかもしれない。こんな子供がここまでやっていると思うと形容しがたい気持ちがこみあげてくる。


「レン。人前で硬貨を広げるのはやるんじゃないぞ」


「わかってるよ。ユウジだから大丈夫だと思ったんだよ」


露骨に機嫌をそこなったのが分かる。ただ、嫌われても言わなくてはいけないことはいろいろある。


「そうだな。レンと俺は仲間だからな。……ただ、年長者としてレンが危ない事をやろうとしたら注意するからそれは我慢しろ」


「……うん。わかった」


思いのほか素直に聞き入れてくる。自分が子供のころはここまで素直だっただろうかと思いを馳せる。レンはやはりいい子だと思う。いや、間違いなくいい子だ。


「じゃあ、俺がこの硬貨を数えるから手に取っていいか?」


「うん。数えてくれ」


一枚一枚、丁寧に数えたが今日、自分が買った槍には残念ながら届かない。ただ、買えたとしても武器は後回しでいい。


「レン。まずはこの硬貨ですねあてと籠手を買おう」


「え?すねあて?」


「ああ、すねあてと籠手だ。まず、すねあてだが、足のこの部分を覆う防具だ。足を怪我すると歩くのもきつい。戦闘だとさらに最悪だ。相手の攻撃を避けるのはもちろん攻撃も防御もいつも通りとはいかない。両足でしっかりと踏ん張ることが出来ないと攻撃も防御もいつもの力の半分も出せないからな。その上、走るの遅くなるから逃げることも出来ない。結果として死ぬ」


俺の言葉のあとにレンは椅子から降りて跳ねたり、屈伸したり、体を捻ったり足の重要性を確認している。


「うん」


「で、こては腕のこの部分を覆う防具になる。人間はとっさに攻撃されると腕で守ろうとする。そこで腕に籠手を装備していたら生身じゃなくて防具で受けることになる。腕自体の怪我を防ぐことが出来るし、生身で受けるよりも強い攻撃を受けきることができる」


「凄い大事なんだな!でも、武器はどうしよう」


素直で凄い助かる。ちゃんと理解しようとしているところも凄い助かる。


「だから、このお金はこてとすねあてを買う。レンの武器は今日、俺が買った槍を使おう」


ここまで話しておいてなんだがすねあてと籠手か……。既製品だと子供のレンには合わないだろう。特注となるとそれなりにお金と時間がかかりそうだ。頼ってばかりで申し訳ないがダンドンに相談してみよう。


「おおー。それが今日買ったやつか?」


「あとで使わせてやるからもうちょい我慢しろ。話しを続けるぞ?」


「おう!」


「魔物退治は昼までだな。で、昼飯とったらレンは勉強とか訓練だな……不満そうな顔だな」


「勉強じゃなくて魔物と戦ってレベル上げたい」


ここで不満が出るのか。短い付き合いながらもレンは素直な性格だと判断できる。それがこちらの提案を蹴ってでもレベル上げをしたいというのはそれだけ強くなるのに執着があるのだろう。


「レン、勉強は生きていくのに必要だ。それに読み書きと簡単な計算が出来ないと強くなるのにも余計に時間がかかるぞ」


「どういう意味だよ。字ぐらい読めるし」


「読み書き両方だな。あとで確認する。で、強くなるにはお金が必要だな?計算できないと依頼料とか誤魔化される。俺もここに来るとき護衛依頼もついでに受けて来たが依頼料誤魔化されそうになったぞ」


「……数ぐらい数えられるし」


「じゃあ、レンが一日30銅貨の仕事を11日やったとしたら報酬は280銅貨でいいか?」


「……ダメだ」


「じゃあ、いくらだ?」


「……」


「答えは330銅貨だ。50銅貨損したな」


「勉強する」


素直なのは好感が持てるが、この年でここまで聞き分けがいいのは不憫にも思える。孤児なのを含めて我儘なんて言えない環境でここまで生きてきたのだろう。


「レン。この話は50銅貨損しただけじゃ終わらない。お金を誤魔化して得した奴はまたレンを誤魔化して得をしようと近づいてくる。どんなに力が強くてもそんな奴しか周りにいない人間は長くは生きていけない。……よくも生きていけない」


「……難しくてわかんない」


「……これから長い付き合いになるんだから今は分かんなくてもいい。ゆっくりでいいさ」


湿っぽい雰囲気になってしまったので切り替えるためにも話を進める。


「生活全般に関してだが……レンは今どこに住んでる?」


「一応、孤児院……寝るところだけ世話になってる」


「なら、生活費……住む場所、食事、服や装備、他にも細々とした物や仕事に必要な物のお金は俺が出そう」


「そんなに出してくれるのか!?」


「まぁ、俺に何かあったときはレンが世話してくるらしいから俺が大丈夫なうちはレンの世話をみるってことだ。あと、お金を出せない場合ははっきり無理と言うからあまり遠慮はするなよ?」


「うん……ありがとう!」


「まずは住む場所の移動だな。孤児院に荷物があるなら取ってきて……孤児院から引っ越すなら俺もあいさつしに行った方がいいか?」


「うーん。そういうのはやらない方がいいと思う。寝場所の礼と引っ越しの話は一人で大丈夫」


「そっか。……なら、俺も一人部屋から二人部屋に移動をしとこう」


「二人部屋?」


「言ってなかったっけ?俺はこの宿屋で寝起きしてるんだ。流石に一人部屋を二つ借りるのはお金が辛いから二人部屋を借りなおそうと思ってな」


「二人部屋ってことは俺とユウジが一緒の部屋で寝るってことか?……そういうことじゃないよな?俺にはまだまだ早いよな?」


レンが急に赤くなり始め、もごもごを独り言を呟き始める。


「レン?」


「……ユウジ!!信じてるからな!!」


「あぁ、うん」


レンはそれを聞き終わると椅子を飛び降り、宿屋の出入り口へと足早に向かう。


「孤児院に行ってくる。すぐ戻るからここにいろよ!」


振り向いてそう言うと扉から外に飛び出して行った。


何が何やらと呆然としていると台所にいた店の主人が一言。


「あの子は女の子だぞ」

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