第2話
門から続く大きな通りをそのまま進む。
中世ヨーロッパの石造りの建物をイメージでいたが、ほとんどの建物は木造づくりだ。昔見た、カウボーイ映画を思い出す。昼までにはまだまだ時間があるが、人の往来は多く、時折馬車も通る。
物珍しさを堪能しながら歩くことしばし、冒険者組合と思われる四階建てで、横幅もかなりある建物を見つける。
大きさからくる威圧感と初めての建物に入る尻込み感があるが何はともあれ、扉を押し開け室内へと入る。
広々とした室内の奥には銀行の受付のようなカウンターがあり三人の女性が間隔をあけて座っている。左側の壁には紙が貼られていて、その反対側には二階へと延びる階段。紙を見ている人が数人。
荒くれ者がたむろしていないし、不衛生な感じもない。日常的にお世話になる予定の場所なのでほっとする。
カウンターには誰もいない。三人の受付嬢から一番姿勢の美しい女性の前へ。
「冒険者登録をしたいのですが大丈夫ですか?」
「はい こちらで登録できますよ」
「では、お願いします」
「冒険者組合員についての説明をします」
頷くと受付嬢が説明を始める。犯罪行為の罰則や組合員の義務など基本的なルールに関してであった。
「すこしお待ちください」
説明の後そういうと、受付の女性は席を立つ。必要な書類でも取りに行くのであろうか。
「お待たせしました」
女性が書類を持ち、席に座る。
「お名前は?」
「ユウジです」
答えると女性が羊皮紙にペンを走らせる。識字率が低いらしいので受付嬢が質問し、その答えを受付嬢が記入するのが一般的なのだろう。
何故か、こちらの文字表記はアルファベットのローマ字読みなので普通に読み書きはできるのだが。
「魔法は使えますか?」
「いいえ」
「武器は何を使いますか?」
「基本は剣を。広い場所では槍を使うこともあります」
女性の視線が腰に下げた剣に向かう。
「魔物の討伐経験はありますか?」
「村の周辺にでる魔物ぐらいならあります」
「対人戦闘は?」
「ないです」
「犯罪を行い、捕まったことはありますか?」
その後もいくつか質問が続き、
「質問は以上ですが、回答に嘘はありませんか?」
「はい ありません」
「では、こちらに手形を押して下さい」
こちらに向けて羊皮紙とインク壺を差し出す。刷毛でインクを満遍なく手のひらに塗り、羊皮紙に押し付ける。
「それでは、冒険者組合の刻印を押しますので左手を出してください」
ぼろ布でインクを拭っていると羊皮紙を受け取った受付嬢が言う。元冒険者から聞いていたので戸惑わずに左手の甲を上にして差し出す。
「ここに新たなる同胞を迎い入れる『スタンプ』」
力ある言葉と呼ばれる物を女性が呟くと、左手を両手で挟み込んでいた彼女の手が淡く光る。同時に質問を聞きながらそれを記載していた羊皮紙も燃え上がる。熱や灰すらなかったので科学的な意味で本当に燃えたのかはわからない。
受付嬢が甲を覆っていた右手をどけると自分の手の甲に盾と剣を単純化したような印が表れる。
(これが冒険者組合員の証明印か……)
異世界の人間である自分にもこの魔法が有効か少し不安だったので問題なく印がでたのに安堵する。
「それでは、ステータスを確認します。『ステータス、オープン』」
受付嬢がそう唱えると印の直上にゲームのウィンドウのようなものが浮かび上がる。枠の中には自分の名前とこの街の名前であるイエン。そして、レベル2、冒険者ランク3と書かれていた。
「問題は無いですね。依頼はあちらの掲示板に張り出します。あなたは冒険者ランクが3なので討伐系の依頼も受けれます。依頼品の報告、納品、討伐金の受け取りはこちらで行います。パーティを組む予定はありますか?」
ステータスを見ながら、手元の紙に書き込みながら聞いてくる。
「基本は一人でやるつもりですが、問題ない人で臨時のパーティー募集があれば声をかけて貰いたいです」
「募集内容に条件はありますか?」
少し考えて、
「街周辺の野外で魔物討伐限定で。強さやお金に関してはあまりこだわらないですがとにかく問題を起こしていない人員で頼みます」
受付嬢が軽く頷き、手元の紙に更に書き込む。
「その他に何か聞いておきたいことはありますか?」
「個室のある長期滞在に向いている宿屋を教えて欲しいのですが」
受付嬢が手元の紙から顔を上げ、こちらの顔を見てくる。宿屋の紹介をするとなるとある程度の責任も出てくる。こっちが紹介するに値するか値踏みをしているのだろう。
ふと思い浮かんで、「冒険に関する資料などは見れたりしますか?」と聞いた。
無表情を貫いていた受付嬢の表情が少しだけ動いた気がした。
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