第3話
イエンの街到着から二日目。
受付嬢が紹介してくれた宿屋はかなりの優良物件だった。掃除が行き届いていて出してくれた夕飯もなかなか美味しかった。初老の夫婦が営んでおり、朗らかなニコニコした穏やかな人たちであった。
アットホームと言う言葉にはあまり良いイメージは無かったがああいうのが本来のアットホームなのだろう。紹介してくれた受付嬢には機会があればお礼をしておこうと思う。
ちなみに、昨日の受付嬢はカウンターには見当たらない。そのようなことをつらつらと考えていると昨日のやり取りを思い出す。
冒険に関する資料については言葉を濁された。
しかし、無いと言われたわけではないので多分あるのだろう。そう考えると閲覧には何かしらの条件……地位や金銭が必要なのかもしれない。わざわざ言葉を濁したのだから追及は出来ない。何かしらのルールがあって話せないのなら条件が揃った時にあちらから反応があるかもしれない。
仮定に仮定を重ねているが無理を通そうとすればトラブルが起こる可能性は十分にある。活動前に情報を仕入れておきたかったがこの件は保留が得策だろう。
そうやって思考していると視線の先の人がほとんどいなくなる。かなり待たされたがようやく掲示板へと移動することが出来る。朝早くから様子見を兼ねて冒険者組合に来たのだが、朝の混雑は凄かった。
離れたところから見ていた感じ、依頼は早い者勝ちで割りの良い依頼を取り合っていたのだろう。
意外に感じたのは掲示板に集まっている人々のほとんどが武器を持つどころか簡素な服装であったことだ。その理由は掲示板に残っている依頼書を読むことで想像がついた。
『馬車から倉庫への荷物運び』
『側溝の清掃』
彼ら彼女らが取り合っていたのは、魔物の討伐依頼ではなく街の中で行われる雑事だったようだ。街中の清掃や荷物の運搬など単純な肉体労働だが安全ではある。武装する必要はない。
冒険者組合ではあるが単純労働力の提供や貧困層の管理なども担っているのだろう。街中の依頼書と危険が伴う討伐や護衛などの依頼書は紙の色が違う。
危険を伴う少し赤色の依頼書を流し読みしているが自分にできそうな物は見つからない。これは予定通り、街の外で魔物狩りが良いだろう。狙う魔物の討伐依頼は無いが狩った魔物を持ち込めば換金してくれるのは確認済みである。
そう判断して、冒険者組合の扉をくぐろうとする。
「おっさん。外で狩りするの?」
お世辞にも身綺麗とは言い難い子供が声をかけてくる。
「ああ、そうだ」
答えて、子供が一人だけなのかと疑問から周りを見回すが保護者らしき人物はいない。それどころかこちらに注目する人間もいない。
「だったら、荷物持ちするから雇ってくれよ」
(さて、どうしたものか)
注目されていないということはありふれた光景なのだろうか。子供の左手を見ると冒険者組合員の刻印がある。年齢制限は無いのかと少し戦慄する。さらに堂々と建物の中で声をかけて来たことや受付嬢が動かないのを見る限り違反行為というわけでもないのだろう。
(この子と雇用契約を結ぶのは合法と判断して……」
「先ずは、ステータスを確認していいか?」
「おう!いいぜ!」
子供らしい元気な屈託のない笑顔で返事をし、左手を差し出す。その左手を下から握り呪文を唱える。
レン、イエン、レベル0、冒険者ランク3と表記される。
(レベルは0もありうるのか)
「俺はレベル2だが冒険者ランクはレンと同じ3だ。一人で魔物を狩るつもりだが何かあったとき守れない可能性もあるぞ?」
「げ、同じランクなのかよ」
なかなかに歯に布着せぬお子様である。個人的には分かりやすいので助かる。唸りながら、視線をあっちこっちに向ける様子は失礼ながら微笑ましい。
「何を狩るつもりなの?」
「一角ウサギ。一匹でいる一角ウサギだけを狙う予定だ。……狩った獲物を持ってくれるなら目標数は5匹。昼を少し過ぎたら目標に達してなくても終了する予定だ」
「場所はどこにするの?門が見える範囲で狩る?」
態度には表れないよう気をつけつつ、感心する。俺の力量から、狙う獲物、場所を聞いて身の安全を取れるかどうか判断しようとしている。受け答えも明瞭でしっかり考えないといけないことをしっかり考えようとしている姿からは頭の回転の速さがにじみ出ている。
「わかった。元々、草原で狩る予定で森に近づく気もないし、それも約束しよう」
「じゃあ、一匹で銅貨で7枚だったらいいよ」
「受付で相場……普通の荷物持ちの値段を聞いてきていいか?」
「冒険者ランクが3で一人でやるんだろ?これぐらい貰わないとやってられないよ」
相場など知らなかったので鎌をかけたが、平然と返してくる。将来有望だ。
(まぁ、一角ウサギなら一羽当たり銅貨20枚から30枚の値段がつくらしいから銅貨7枚取られたとしても勉強代としてあきらめもつくか)
「わかった。今日はよろしく頼む。レン」
「おう!よろしくなおっさん!」
了解を得たので差し出した右手をきょとんと見るレン。けれども、右手の意味に気づくと先ほどより元気で屈託のない笑顔で差し出した右手を握ってくれた。
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