大学時代から片思いしているサークルの先輩の結婚式に参加する話
ごりぴー
ザキさんとの出会い
今日は穏やかな晴天で、時おり吹く風が心地良い。駅から歩いて十五分ほど。都会の喧騒からだんだんと遠ざかり、緑が増えてきたところに、絵本から出てきたような白くて可愛らしい教会があった。
あの人にもこんな可愛らしい一面があったのかと考えていると、ふいに名前を呼ばれたので、その声の方向に顔を向ける。大学を卒業して以来久しく会っていなかった、サークルの仲間たちがそこにいた。
久しぶりーと声をかけあう。今日はサークルの先輩であるザキさんの結婚式だ。
アユミは全然変わってないねと言われ、そうかなと答えた。就職先を尋ねられ、電子メーカーの経理だと答えると、あぁやっぱりと理由が分からない笑いが起きる。ほんと独特な空気感だよね、とまだ昔との変化を探そうとする目から逃れるために、受付済ませてくると答えその場から離れた。
一歩ずつ踏み出すと、その協会で植えているお花なのか、甘くて爽やかな香りがした。そっと息を吐き出すと、急に心が静かになる。あの人の隣にいたときもこんな風に穏やかな気持ちになれていたなと、今日の主役のザキさんとの出会いを思い出していた。
○○○
「ビール苦手なんだったらこれ飲んでみなよ」
と差し出されたシャンディ・ガフ。
入学式が終わり桜が散り始めていた頃。よく分からないまま時間割を決め、必修の授業を終えて帰ろうとしていたときだった。一人で駅まで向かおうと歩いていたところ勧誘され、無理やり連れてこられた軽音サークルの新入生歓迎会。
こちらが声を挟む隙も与えず、あれよこれよと個人情報を丸裸にされ、四月生まれの浪人生だとバレたところで、一気に注がれたビールと下世話な野次。こんなもの美味しいと思ったことない。意味が分からない。早く帰りたい。
そう思って殻にこもっていると、だんだん周りは面白い方に集まっていき、いつの間にかその場にあったのは飲めないビールと自分だけだった。
新入生はお金も払わなくていいみたいだし、トイレに行くふりして帰ろうとした瞬間、シャンディ・ガフをオススメされた。いや、いいです。いーからいーから!ね!と埒が明かない会話を繰り返し、じゃあ一口だけと口にしてみると、信じられない美味しさがあった。今まで苦味しか感じなかった金色の液体がこんなにも飲みやすく感じるなんて。
思わず美味しいと呟くと、目の前の人物はまるで自分を褒められたかのように顔をほころばせた。
その瞬間、心臓を掴まれる思いがした。
騒がしいはずの飲み会で、その人の声しか聞こえなくなった。
これがザキさんとの出会いだった。
大学時代から片思いしているサークルの先輩の結婚式に参加する話 ごりぴー @goripi_uho
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。大学時代から片思いしているサークルの先輩の結婚式に参加する話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます