第1話;3月28日


 アニメのキャラクターがプリントされたボールペン。

 捨てる。

 半分使ってあるノート。

 捨てる。

 未使用の消しゴム。

 取っておく。

 作文用紙。

 捨てる……前に一応、中を確認しておこうと思った。

『大好きなお姉ちゃん 四年生 礼ノ宮れいのみや 柊子ひいらぎこ

 私のお姉ちゃんは自まんのお姉ちゃんです。

 やさしくて頭が良くて、スポーツも得意です。

 作ってくれる朝ご飯もとってもおいしいです。

 私にはお母さんもお父さんもいないけれど、いつもお姉ちゃんがいっしょにいるからぜんぜんさみしくありません。

 お姉ちゃんは私のためになんだってしてくれるから、私もお姉ちゃんのためになんだってしてあげたいと思います。

 これからもお――』


 捨てる。

 柊子は日に焼けた用紙をくしゃくしゃに丸めてゴミ袋に叩きこもうとする。

 だが、それは寸前で阻止された。

 右手首をガッチリと掴まれ、全く動かすことができない。

「えー、お姉ちゃんはこれ『取っておく』だと思うなあ」

 妹の背後からこっそりと作文を読んでいた姉のさくらが、にやにやとした表情で柊子の手から紙を奪い取る。

 紙の球になっていたそれを丁寧に解くと、端から端へと目を滑らせていく。

 柊子が不意を突いて手を伸ばすが、桜は作文を見たまま楽々と躱した。つられて桜の栗色の髪が柔らかそうに揺れる。


「懐かしいなあ! 何年前? 春からひーちゃん高校一年生ってことは、五年前?」

 桜はまるで子供からゲームを取り上げた親のように、天井高く作文用紙を持ち上げる。彼女の身長は百七十センチを超す長身で、そこから腕を伸ばし切ってしまえば百六十センチ程度しか無い柊子にはどうしたって届かない。

「……返して、捨てるから」

 姉を睨みつけながら柊子が手のひらを差し出す。不機嫌な態度を隠そうともしない。

「取っておこうよぅ。大切な思い出なんだから。……あーほんと懐かしいなあ、この頃のひーちゃんは人見知りで私にベッタベタだったなあ。どこに行くにも『お姉ちゃん、お姉ちゃん』って、可愛かったよねぇ。……ま、今も可愛いけど☆」

 姉ウィンク。

 対して妹は眉を顰めてガンを飛ばす。

「おためごかしはやめて。捨てる」


 頑なに捨てようとする妹の態度が変わらないことを見ると、やれやれと演出過剰な仕草で首を振って口を開いた。

「譲らないなあ。……じゃあ、戦うしかないね。互いに意見を譲れない時は」

 桜は準備運動のようにぐるぐると肩を回し始める。

「ちっ」と柊子は姉に聞こえないように小さく舌打ちをした。

 姉妹で意見が割れたときはいつもこうだ。

 そしてこうなったら、結果は常に決まっている。


 桜は腕を交差させて自分の右手と左手を絡ませる。

 そのままくるりと内側に腕を捻って、望遠鏡を覗くように、握り締めた両手の隙間を見つめた。何かが見えるはずでも無いのに、彼女は儀式を欠かさない。

「さーてと、準備はいい?」

「いいよ。どうせお姉ちゃんが勝つし」

 ふふんと上機嫌に鼻を鳴らすと、手を解いて右手で握り拳を作った。

「最初はグー! じゃんけん……ぽん!」


 桜はチョキ。柊子はパー。

「私の勝ちー! じゃ、思い出の作文用紙は捨てないってことで。私がだいじ〜〜に保管しておくね☆」

「……はいはい」

 いつもこうだ、と柊子は思った。

 言い争って、もしも喧嘩しそうになったらその前にじゃんけんでケリをつける。ずっと前から変わらない、知らぬ間にできていたルール。

 じゃんけんは柊子が常に勝てないというわけではない。

 そうではなくて、常に姉の思った通りの結果になるだけだ。

 今の勝負のように、決して譲れないと思っている状況ならば姉は必ず勝つ。自分の意思を曲げてもいいと思いながらじゃんけんに臨めば、必ず負ける。

 この法則が当てはまらなかった事は、きっと過去に一度も無い。


「……ていうか、ふざけてないでお姉ちゃんも荷解きして。お姉ちゃんが適当に詰め込んだせいでいらないものまで入ってるんだから」

「はーい」

 柊子は荷物のぎっしり詰まった段ボール箱に向き直る。

 小学校の教科書。古い絵本。低年齢向けのおもちゃ。

 さっきの作文からも察せられるように、この段ボール箱の中身は小学校低学年の頃のものが主体のようだ。今は必要の無いものばかりだろう。

 内側からはち切れそうな箱を両手で持ち上げて、『捨てるもの』がまとめられているスペースに運ぶ。

 想定以上の重量に、柊子は若干ふらつく。

「大丈夫? 持とうか」

「平気。お姉ちゃんは自分のを続け――」


 素足の感触から、柊子は自分が何かを踏んだことに気付いた。

 体重がかかってそれを壊してしまわないように、と咄嗟に反対の足に重心を移動させる。

 そこで、柊子は抱えている箱の重さを計算し切れていなかったことを理解した。

 視界が傾く。

 バランスを崩した身体は、背中から固いフローリングへ向かう。

 荷物から手を離せないせいで、満足に受け身も取れそうに無かった。


「はい、セーフ」

 柊子の身体が床との間に丁度四十五度を作ったところで静止する。

 背中に力を感じて視線を向けると、桜が腰回りを抱え込むように腕を伸ばしていた。

「も~、無理しちゃダメだよ。高校入学初日に松葉杖ついて登校なんてなったら、キャラ強すぎて友達できないぞ」

 抱えている方とは逆の、もう片方の腕で柊子の手から段ボール箱を取り上げる。

 柊子が苦心して運んでいたことが嘘のように、桜は片手でそれを軽々と持ち上げていた。

「きゃー。ムキムキお姉ちゃん~」

 軽口を叩きながら柊子を持ち上げて体勢を戻す。手に持った箱も危なげなく、あっという間に『捨てるもの』用のスペースに運ばれた。


「……」

 為されるがままにされていた柊子はじっとりとした視線で不満を訴える。

「なーに拗ねてんの! 可愛い顔が台無しだぞ。ウソウソ、拗ねた顔も可愛いよ☆ ……これ、親バカ……っていうか姉バカ過ぎかな?」

「姉バカ過ぎだし、過保護過ぎだし、子供扱いし過ぎ。私、もう高校生だよ。このくらい、別に転んでも平気だったし」

 胸の内を一気に捲し立てる。

 桜はそれらの言葉にひえ〜と大仰に嘆くそぶりをした。

「過保護かぁ……。ま、そうは言っても、ひーちゃんはいつまでも私の妹だし。高校生でも大学生でも、いつかおばあちゃんになってもね」

「はいはい、前も聞いた」

 桜は妹の呆れ顔を見て微笑む。

「ともあれ、無事で良かった」


 グゥと間の抜けた音が部屋に響く。

 まだ物の少ない室内は音がよく響くようで、二人の耳にはしっかりと胃袋の抗議が聞こえていた。

「安心したら、お腹空いちゃった☆」

「荷解き、まだ半分も終わってないんだけど」

「でももう十四時だよ? お昼食べないと力もやる気も出ないな〜」

「食べたら食べたで『眠くなった〜』とか言うじゃん」

「人生の先輩であるお姉ちゃんが一つ、日々を楽しく過ごすコツ教えてあげる。……『欲望には従え』! これ!」


 柊子は桜を無視して、衣服の入った段ボールから適当に上着を取り出す。

 三月で春も近いとはいえ、上着無しではまだ寒い。

 厚手で長袖のものを探し当てて引っ張り出すと、姉の物である黒いジャンパーだった。一見シンプルなデザインだが、背中にでかでかと『CRISIS BURGER』と文字とハンバーガーのイラストが刺繍されている。

「まあいっか」

 丈が若干余るが、オーバーサイズとして着れないことも無い。柊子はそう思って、姉のジャンパーを羽織る。

「ん、あれ? どーしたの?」

 突然着替え始めた妹に対して、不思議そうに首を傾げる。

「……行くんでしょ、お昼」



☆☆☆☆☆



 街並みは車の速度に追い付けない。過ぎ去っていく。

 柊子は引っ越してきた新しい街の風景に心を躍らせるわけでもなく、助手席からぼんやりと眺めていた。

《 本日未明、――の首都が――り攻撃を受けました。 》

「何食べたい? 引っ越し初日だし、なんでもいいよ~。奮発して焼肉でもオーケイ!」

 運転席から桜が楽し気に話し出す。

 会話をしながらでも運転にまったく支障はなく、慣れた手つきでハンドルを回していた。

「ハンバーガー」

「ハンバーガーかぁ。……あるかな、この近くにクライシス・バーガー」

「別にクライシスじゃなくてもいいよ……」

「そーなの? ひーちゃん好きじゃん」

「辛いメニューが多いから気に入ってるだけ」

 柊子は携帯端末を操作して地図のアプリケーションを開く。

 タッチパネルを使って『クライシス』と入力すると、すぐに近辺のバーガーショップの位置が表示された。

「あった。エイトモールっていうショッピングモールに、クライシスあるって」

「じゃ、そこ行こっか。ついでにモールで買い物もしよう! ひーちゃん、ナビよろしく」

「ん……」

 中古の軽自動車には買ったときからカーナビが無く、代わりに古いラジオ機能付きCDプレーヤが備え付けられていた。

 初めて行く場所への道案内は助手席に座る柊子の仕事。

 柊子の適切な指示と、桜の慣れない土地でも臆すことないハンドルさばき。姉妹の息の合ったコンビネーションのおかげで、二人はこれまでカーナビの必要性を感じたことはなかった。

 

《 現在までに少なくとも48名の死者が―― 》

 ラジオのざらついた音声が止めどなく流れる。

 引っ越してきたばかりでラジオのチャンネルもわからず、桜が適当に合わせた周波数から聞こえてきたのはニュースだった。

「……うーん」

 信号で車が停止したのを見計らって、桜はプレーヤ横のツマミを回す。

 一瞬ノイズが聞こえた後、再び人が話す声が鳴る。

《 町蔵まちぐら二町目の児童公園で女性の遺体が見つかり―― 》

「ちがーう」

《 ――が日本海に向け飛翔体を―― 》

「もう、物騒だなぁ。どうして私たち姉妹みたいに仲良くできないのかね~」

 ね〜と同意を促す様に語尾を反復する。

「……」

「ね~☆」

「……ねー」

 姉に発生したループを終わらせるために、可能な限り感情を排して柊子も返事を絞りだした。


《 ――ました、FMマチグラ! では、次のお便りは……『開発〇号』さん! 》

「お、ニュースじゃない! いいね、リクエスト曲流す感じかな」

 偶然にもヒットしたラジオの音楽番組。

 打って変わってポップなBGMが流れ始める。

《 ――いつも疲れた日にはこの曲に癒して貰っています』。そういうのわかります~ 》

《 それでは聴いてください、Rencoで『マジ、魔法少女活動中。』 》

「あ、これ、ひーちゃんが好きだったアニメの曲じゃない!? ほら、あの魔法少女なんとかーってやつ!」

 軽快なリズムで流れ出した歌に合わせて桜が鼻歌を歌い出す。

「……そーだけど」

「おもちゃが人気ですぐ売り切れちゃうからって、お母さんと三人でお店に並んだよねぇ」

「覚えてないよ。お母さんが生きてた頃の話なんて」

「えー忘れちゃったの?」


《 マジ!? マジ!! 皆の幸せ、平和、友情のために魔法を真剣マジで~♪ 》

 ラジオから聞こえる楽曲はサビに入ったところで一層激しさを増す。

「ひーちゃん小っちゃかったし、覚えてないのもしょうがないかぁ。写真もあんま残ってないしね。……でも、お母さん綺麗だったんだよ。ひーちゃんによく似た綺麗な長い黒髪で、すらーっとしてて」

「――そこ右」

 口ではおっと、と言いながら柊子のナビゲーションに即座に反応すると、桜は危なげなく、交差点を右折する。


「……ふーん」

 興味なさげに相槌を打つと、柊子は運転する姉の横姿をちらと覗いた。

 モデルのような高身長にすらりと長い手足。

 綺麗な栗色の髪に、くっきりした二重の大きい目。

 日本人なのに珍しく瞳の虹彩が灰色で、午後の光に反射して芸術品のような雰囲気を放っていた。

「別に。覚えてもないお母さんに似てるって言われてもなんとも思わない」

 柊子は視線を姉から前方に戻して、独り言のように呟く。

 戻した拍子に、サイドミラーの姿が目に入った。

 ごわごわとした固そうな黒髪に、塗りつぶしたような真っ黒の瞳。

 その黒い瞳の不機嫌そうな少女じぶんがこちらを見ていた。



☆☆☆☆☆



「ビッグクライシスバーガーのセットで、ドリンクは~……紅茶のホットで! あ、あとナゲットひとつ!」

「ホットチリクライシスバーガーのセット。ドリンクはホットコーヒー。ミルク下さい」

 二人がエイトモールに着いた頃には、既に十五時を過ぎていた。

 繁忙期を終えた店内は閑散としていて、注文を受けると数分もしないうちに商品が出される。

 柊子たちはハンバーガーとポテト、それにドリンクの載ったトレーを持ってソファのある席に向かい合って座る。


《 マジ!? マジ!! 心に勇気、希望、愛情を持って魔法を真剣マジで~♪ 》

「絶賛放送中って、驚きだよね。こんな長寿番組だったんだ、これ」

 揚げたてのまだ熱いポテトを慎重に食べながら桜が言う。

 桜が口にした話題は、例の魔法少女アニメのことだった。

 店の前には『魔法少女キャンペーン』と銘打った旗が立っており、店内のスピーカからは絶え間なく賑やかな楽曲が流れている。

 絶賛放送中という文言は偽りではないようで、まばらに座っている客はみな特典で貰えるおもちゃが目的の親子連れだった。

「他に面白い番組がないんじゃない」

 柊子はハンバーガーの包み紙を開きながら答える。

 かさかさと封を解くと、中からパンと真っ赤なソースのかかったビーフパティが姿を現した。唐辛子ベースの香りが鼻腔をくすぐる。

「夢のない解釈だー」

 桜も包みを解いてハンバーガーを食べ始める。二段に重なった重量感のあるバーガーを早いペースで平らげていく。


「それもそうだけどさ。きっと、みんな強くて優しいヒーローが好きなんだよ。しかもそのヒーローが可愛い衣装に身を包んで魔法を使ってたら、それはもう、憧れちゃうよね」

 あっという間にバーガーを食べ終えた桜は、残るチキンナゲットへと狙いを定めていく。

「ねぇ、ひーちゃんは魔法が使えたら何がしたい?」

「銀行強と――……お金を創り出す」

「我が妹ながら信じられないぐらい夢がないよね」

 もさもさとチキンを頬張りながら生暖かい目で妹を見つめる。

「魔法って、欲望を実現する道具でしょ。今切実に欲しいのはお金だから。引っ越したばかりで私たち金欠だし」

「それはそうだけどぉ……」


 柊子がようやく自分の分のハンバーガーを食べ終える。

 ナプキンで口元を拭っていると、遠くでパトカーのサイレンの音が聞こえた。建物に反響しながら徐々に大きくなる音は、パトカーが近づいてきていることを示している。

 チキンナゲットのピースをすべて食べ終えていた桜は、手持ち無沙汰なのか手元の紙で折り紙を折っていた。

「お姉ちゃんは魔法で何がしたいの?」

「私はね――」

 言いかけたところで、ぴくりと何かに気が付くと、桜は後ろを向いた。


「ね、知らないおねーさん」

 それほど長くない髪でツインテールを作った幼稚園児くらいの少女が、桜の服の裾を引っ張っていた。

 桜は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに自然な笑顔を作って女児へと話しかける。

「わ、可愛い髪型だね。お姉さんて、私?」

 髪型を褒められた女児は少し嬉しそうにすると頷き、もじもじとして言葉を続けた。

「……おねーさん、魔法が使えるの?」

 問いを耳にして、桜は灰色の瞳を細めて微笑む。

 上品に笑う彼女からは、この世のものではないような神秘的な空気が醸し出されていた。

「実はそうなの。でもバレちゃったらまずいから、他の人には内緒にしててね」

 わざとらしく声を潜めて、囁くような声色で告げる。

 それを聞いた女児はきらきらと目を輝かせて、こくこくと何度も頷いた。

「ありがとう。お礼にこれあげちゃおう。枯れない、魔法の花」

 手品のようにどこからともなく、紙製の花を出現させる。

 折り紙で作った蓮のような花だった。

 即席とは思えない精巧な出来栄えの折り紙を受け取ると、女児は震えるほど感動し、お礼を言って足早に去っていった。


「ごめんね、ひーちゃん」

 唐突に謝罪を口にし、一変して申し訳なさそうな態度を取る姉の姿に、柊子からは自然と疑問の声が出た。

「え?」

「あの折り紙、ひーちゃんの作文用紙で作ったの」

「#$%&☆$……!!」

 衝撃の言葉に、柊子はソファから立ち上がって勢いよく膝を机にぶつける。

「ふふ、いや、ごめん。ウソウソ。ナプキンで作ったの」

 わかりやすく狼狽える妹の姿に堰を切ったように大笑すると、指で涙を拭いながら真相を話した。

「……お、怒るよ」

 敵わない。

 柊子はそう思った。

 悪戯っ子のようにふざけていると思ったら、品よく笑って少女に夢を与える。かと思ったら、再び悪童に戻って人を誑かす。

 天真爛漫でどんな役でもこなしてしまう姉に、どうやっても自分は敵わないと思った。


「――私はね、ひーちゃん。魔法が使えたら、皆のところにすぐに飛んでいけるようになりたいな。事故とか事件とか、困ってる人のところに一瞬で駆けつけて、手伝って解決の助けになりたい」

「……いいんじゃない、魔法少女みたいで。向いてると思うよ」

「うわ、妹の心無い言葉。傷つく」

 言葉に込める感情の有無にかかわらず、柊子の思いは本心だった。

 皆の『助けて』の声にすぐさま現れる、強くて優しい、まるでフィクションの中の存在。

 姉にはそれが向いていると思った。

「……まあ、お姉ちゃん、流石に『少女』って年じゃないし」

「あれ? なんか深い傷を負った気がするな。……確かに二十四歳はもう少女じゃないけど。フリフリの着いたピンクのミニドレスとか、体格的にも厳しい気もするけど……」

 桜はがっくりと肩を落とし、ズズズと温かい紅茶をすする。

 そんな気落ちした姉がピンク色でフリル付いたのミニスカートを着ている姿を想像して、柊子は顔を綻ばせた。

「似合わない」

「ひーちゃんならまだまだいけるよ、可愛い目のピンクドレスでフリルいっぱいのやつ! 童顔でキュートだし、少し濃いめのピンクなら黒髪に映えると思うな」

「姉バカ」

 一言だけ発してミルク入りのコーヒーを飲み干す。

「まぁ、主観的な意見であることは否定しないけど☆ でも、お姉ちゃんより向いてると思うし」

 応援したくなるような、憧れてしまうような皆のヒロイン。

 姉は綺麗な灰色の瞳で妹を真っすぐに見据えて、そう呟く。

「私は、ひーちゃんに魔法少女になって欲しいなあ」


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