第3話 初恋少女の声かけ作戦~自然な雰囲気で~

 この話は本編である『未確認戦闘員 ユーシア』のハーユー民族編の『エンディングと日常』の日常前の出来事です。

 未履修でもいけるようにしています。


 地下にある未確認戦闘員ユーシアの基地にて、家庭の事情により基地の部屋に住んでいる戦闘員の一人、コウリの部屋に珍しいメンバーが集まっていた。

「圭介を好きと自覚したシズトリの悩みを解決しよう!」

 部屋の主であり、もこもこした可愛らしい部屋着を着たコウリが手を叩きながら盛り上げた。その隣では正座をして固まっているシズトリが顔を真っ赤にしている。

 静鳥彩芽しずとりあやめの中には感情の芽がいくつかある。いじめられた小学生時代、初めて仲間ができた中学生時代を経てシズトリの芽は彩り豊かに育っていっていた。ただ、圭介に出会ってから未開拓の芽が大きくなっていった。最初はシズトリにはその芽が何の感情なのかわからなかった。しかし、先日戦い、今は友人となっているシアンに出会ってことで、シズトリははっきり恋をしていると宣言することができた。無意識に育てた芽は、自覚をするとさらに大きくなり、シズトリにはどうすればいいのかわからなくなってきた。そこで、こうやって集まれる女子を集めて今後について語ろうと、コウリが提案してくれたのである。

「本題は高校で会った時、どうすればいいのかってこと。シズトリは圭介と同じ高校だから、絶対校内で会っちゃうでしょ?その時避けちゃったら、発展しないもん。でも、どうすればいいのかわからないんだって」

 赤面したまま黙っているシズトリに変わってコウリが説明していく。

「あのさ」

 カーペットの上で片足を立てて座るカナメが気まずそうに口を開いた。

「あたしは人選ミスじゃないのか?」

「それはそうかもだけど!」

 前髪越しに隈のある瞳に見つめられてコウリは思わず目を逸らす。

「でも、そしたらボクだって人選ミスだと思うけどね!的確な意見をくれるのはフタバくらいだよ!」

「いやいや、アタイだって片想い中なんだけど?」

 フタバはツインテールをいじりながら答える。

「うぅ、ごめんね、シズトリ。ボクが集められるのはこのメンバーくらいなんだ」

 コウリの申し訳なさそうな声に、シズトリは慌てた様子で首を振った。

「ううん!ウチのためにありがとう。フタバ、カナメ、ごめんね」

「別に相談にのるのは構わないんだ。ただ、あたしでいいのかっていう話だ。あたし、恋愛とか向いてないし」

 三人は眉を下げてカナメを見た。

「何?」

 カナメは首を傾げる。現在進行形で、彼女は男女ともに認められたイケメンである、サクラギに片想いをされている。周りは彼の想いに気づくのに、鈍感な彼女は一切気づいていなかった。先日の戦いで少し進展が見えたものの、サクラギの恋が成就する未来はまだ少し遠い。

「どうして気づかないんだろ?」

「ボク、サクラギがかわいそうだよ」

「ウチでも気づくのに」

 三人は心配そうに囁き合う。そのため、少し顔を赤らめて呟くカナメの声なんて聞こえていなかった。

「サクラギが何かキラキラして見えるけど、これが恋愛かどうかわかんないし」

 そう呟いたカナメは考えることをやめるために首を振った。そして、座りなおして、すぐに赤面からいつもの顔に戻し、話を本題に戻すことにした。

「で?まず、どうして圭介が同じ高校なんてわかるんだ?圭介は何も言ってなかったと思うけど」

「初めて会った日、制服を着ていたんだ。ウチの高校の制服だった」

「夏休みが終わって結構経つけど、圭介とは会っていないの?」

「それが、見かけはするけど、向こうに気づかれる前に隠れている」

 フタバの問いに、シズトリは苦笑しながら答えた。

「一回避けちゃうと、本当、どうすればいいのかわからなくて」

 シズトリはどんどん小さくなっていく。

「じゃあさ!初めて会った、一緒だったんだね的な演技をして声をかけようよ!」

 コウリが名案だと手を叩く。

「え、でも、ウチ演技とかできない」

 シズトリの回答にコウリは腕を組んで考える。真面目なシズトリには確かに難しいかもしれない。

「じゃあ、練習すればいいんじゃね☆」

 フタバがニヤリと笑って、手を上げた。コウリは目を輝かせて、その手に自分の手を重ねる。そんな二人のハイタッチをカナメは呆れたように見つめた。

「残りのメンバー、どうして今日いないんだよ」

 カナメの頭に浮かんだ彼氏持ちのイオ、コミュニケーションおばけのヒロ、お母さんのようなミクリは本日欠席である。

「シズトリ!練習しよう!演技の!ボクが圭介の役をやるから!」

「わかった、頑張る!」

「アタイ、セリフ考える!」

 紙にセリフやら役名やら書いて盛り上がる三人を見て、カナメは穏やかな気持ちになる。非日常体験の後のこのような雰囲気は疲れた身体を癒し、自分が高校生であることを自覚させてくれる。

「あれ?圭介?っていかにも今初めて気づきましたテンションで声かけてみて☆」

「うん、アレ?ケイスケ?」

「いや、下手!」

 圭介になりきってスタンバイしていたコウリが叫ぶ。

「もう一回☆」

「うん、アレ?圭介?」

「ちょっとよくなった☆じゃ、コウリ、続けて」

「わかった。え!シズトリさん!?同じ高校だったんですか!?」

「言いそう☆」

 フタバは笑いを堪えながら親指を立てる。

「次、このセリフ言って☆あと、常にスマイル☆」

 人差し指でフタバは自身の頬を上げた。

「うん、わかった」

 そんな風景を見ながら、カナメは少しずつ意識を手放していた。そのまま眠りの世界へ旅立ったカナメだが、彼女が目を覚ました時、まだ特訓は続いていたのだった。



 廊下で見つけた姿に、シズトリは深呼吸しながら近づいた。

「あれ?圭介?」

「シズトリさん!?同じ高校だったんですか!?」

「うん。まさか同じだったとはね。びっくり」

 シズトリは頬を赤らめながら微笑んだ。

「彩芽!どうしたの~?」

「今行く~!」

 離れた所にいるクラスメイトにシズトリは返した。

「じゃ、ウチ行くね。また本部で」

「はい」

 背中に圭介の視線を感じながら、シズトリは小さくガッツポーズをした。

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