私たちが普段街中ですら違ったり、電車の中や学校で空間を共にしているけど、みんながなんとなく嫌だなと感じている「ある物」。それをこの作品では思いもよらない斬新で独創的な視点で「使えるもの、命をつなぐために必要なもの」であると再定義し、価値を再創造するという一連の流れはさながら神話のよう。
またそんな斬新な作品でありながら、グルメとコメディというエンタメ要素も事欠かず、非常に読みやすい構成となっています。作中で描かれるグルメ描写は私が幼いころに母親が作った弁当の味を思い出させてくれました。そして後半で主人公が道具を使って大量の食材を手にするシーンでは大爆笑、もう最高です。
それらの魅力的な要素を、思慮深く練られた文学的なリリシズムがコーティングしており、極めて質の高い作品に仕上がっています。こんな感動を短編小説から感じられたのは久々のことで、感服しています。