第13話 恋の終着点はニノイ・アキノ国際空港

エディンバラ以降、沙耶と連絡をしていない。

唯一したのは、日曜日、ニノイ・アキノ国際空港で会う約束だけ。

授業の内容は、ほとんど頭に入ってこなかった。

こんなに勉強や日常生活に身が入らなかったのは、いまだかつてない。

そしてあっという間に一週間の授業が終わり、沙耶とのお別れの前日になった。


「いよいよ大丈夫か?ま、大丈夫な訳ないよな。人生で初めて恋して、結ばれたかと思ったら、フィリピンを離れることになるなんてさ。本当、残酷すぎだわ」

「うん、、切なすぎるわ。せめて、明日は沙耶さんとの最後の時間をしっかりと感じてこないと、だよ」

「うん、二人ともありがとう。」

沙耶とのお別れの前日、僕のことを思いやってか、優太とまりながクローバーモールでお茶でもしようと声をかけてくれた。

そしてここは、初めて沙耶と出会った、中央公園の噴水のある場所だ。。

「こんなことってあるんだね、、まだ受け止め切れてない。」

「そりゃそうだって、俺だって落ち込んでるよ、自分ごとの様に感じるよ」

「明日はどれくらい沙耶さんと一緒に過ごせるの?」

「1時間くらい、、かな」

「1時間。。とっても貴重な1時間ね」

「うん」

「まあさ、LINEで向こうでもやりとりは、出来るわけで、人生どうなるかなんて、まだわかんないしさ。なあ、まりな」

「遠距離恋愛ね、、、」

「おいまりな、そこはもっと平気そうなリアクションが」

「大丈夫だよ優太、ありがとう。でも多分空港で正式にお別れの挨拶をすることになると思う。」

「おい幸来、なに言ってんだよ。まだわかんないじゃんか」

「優太、もうやめよ」

「まりな、、」

「優太にまりな。本当にありがとう。大丈夫。今落ち込んでるけど、明日の覚悟は自然ともう出来てるからさ」

「幸来、、」

「今日は本当にありがとう。明日の朝早い便で経つみたいだから、早めに帰って寝ないとだ笑」

「じゃあな、いつでも電話してええで」

「優太に電話したら余計に疲れちゃうからしないほうがいいわよ〜笑」

「うん!絶対やめとく〜笑」

「いやおい笑!」

「それじゃあまたね」

「またね」

「またな〜!」

本当に良き友人を持てて、僕は恵まれてる。



一睡もできなかった。正確には1,2時間くらいだろうか。

7時間睡眠の為にベッドに入ったけど、結局寝付けなかった。

朝食の時にアルテアさんは、あえてなにも僕に言わなかった。

ただ、暖かい声と笑顔で僕を玄関先で見送ってくれた。

母は、なにかを察してか、ただいつもの様に僕を見送ってくれた。


ニノイ・アキノ国際空港へは、予定時刻に到着することができた。

「えーと、4階に行けばいいのか」

沙耶とは展望デッキで待ち合わせている。

「ここかな」

展望デッキには、ほとんど人がいない。

角のほうにたたずんでいた沙耶は、次から次へと飛び立つ飛行機を眺めていた。

「お待たせ、沙耶」

「おはよう、幸来」

「すごい、待ち合わせ時間ぴったりだね」

「いつも通り笑」

沈黙が流れる。

「本当にこれでお別れなんてね、まだ実感、ないよ」

「僕も、明日また会えるんじゃないかって、そう思っちゃう。。」

「寂しいね、、」

「うん」

また沈黙が流れる。今度はさっきとは、比べもにならないくらい長い。

「沙耶と出会えて、僕は幸せだったよ。たとえ、こんなにあっという間に終わってしまう恋であったとしても、今日までの沙耶への思い、好きで好きでたまらないって思い、心から守ってあげたいって思えた。沙耶とカフェで楽しくお喋りしたり、映画見たり、ダンスしたり、散歩したり、電話したり、その全てが、僕の一生忘れられない宝物です」

ああ、なにかが頬をつたってくのを感じる。

「私も、幸来に出会えて本当に嬉しかった。こんなにも愛おしく感じる男性は、幸来が初めて。でも、もっともっと幸来と、もっといろんなとこに行ってみたかった。海も、山も、いろんなとこに行きたかったよ、、、、」

沙耶の瞳から大粒の涙が出始めた。

それは瞬く間に洪水のように、滝のように頬をつたった。

僕の視界も、少しずつにじんでいった。

「もう、時間になっちゃた。」

「うん、行かないとだね」


出発ロビーには、沙耶のご両親がいた。

「沙耶がお世話になりました」

「いえこちらこそ、とてもお世話になりました。出発前の貴重な時間をありがとうございました。」

「いえいえ、まだ後少し時間があるわ。沙耶、先に行ってるわね」

「うん、あとで追いかけるね」

「もう、出発だね。」

「うん」

「シンガポールでの新たな生活、心機一転楽しんでね」

「うん、そうする笑 幸来もこれからのマニラ生活、思う存分楽しんでね」

「おう、ありがとう」

「いつかまた、会えるよきっと」

「その時は、お互いもっと輝いてるね、きっと」

「もう、行かなくちゃ」

「うん、行ってらっしゃい。じゃないね、さようなら、沙耶」

「さようなら、幸来。心から好きでした。」

「僕も、心の底から大好きでした。」

また視界がぼやける。

お互いに涙を隠すかの様にハグをした。

「それじゃあね」

「うん、ばいばい」

彼女は最後に涙と鼻水を拭きながら、満面の笑顔を見せてくれた。

そして、沙耶はもう一度振り返ることなく、ゲートを通過した。

帰りの車で僕は、泣いた。

今までこんなに泣いたかとがあるのかというくらいに泣いた。

「恋愛って楽しくて幸せだけど、苦しいな」

シンガポールの沙耶とは、その後しばらくLINEで連絡を取り合っていた。

でもその内連絡回数も減り、年末頃には、全くやりとりしなくなっていた。



今年最後の授業が終わった。

「優太、まりな、年末3人でカウントダウンイベント行かない!?」

「いいな!幸来のリサーチに期待!」

「一緒に考えるのよ、ばかね笑」

「わかってるよ笑」


こうして僕の初恋は、終わった。

恋愛は、時として残酷だ。

でもその儚さが人を魅了し、今も昔も様々な物語を紡いでる。

映画やドラマ、小説で。

僕は、次にどんな恋をするのだろうか。

失恋は、必ず乗り越えられるし、人生を豊にするエッセンスだ。

世界中の皆さん、どうか人に恋をすることを恐れないで、それではさようなら。

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僕の初恋はフィリピンで カンツェラー @Chancellor

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