第12話 エディンバラの涙
さてさて、今日は楽しいデートの日だ。
いつもの朝活を淡々と終わらせ、残された時間で勉強をする。
ああ、なんて有意義な生活なんだろう。
心に曇一つなく、清々しい。
「行ってらっしゃいませ」
そう言うとアルテアさんは、ウィンクした。
「うん、行ってきます」
僕もウィンクで返した笑
エディンバラホテルは、ホテルとは程遠い巨大な複合型施設の様であった。
というか、映画やカフェやレストラン、お洋服屋さんに本屋さん、実際そうだ笑
「いつも時間きっちりで偉い偉い」
「沙耶」
入り口でマップを見ていた僕の背後にまた知らぬ間に。
クノ一か笑
「まずどこ行こっか〜」
二人でLINEで前夜ギリギリまで話していたが、
行って気分で決めていこうと決まったのだった。
「ちょっとメンズ服見たいかも」
「いいよー、5階だって」
「エレベーターあった」
「エスカレーターのほうが早いよ絶対」
「OK、エスカレーターだ笑」
「どんだけ続くの、この道」
「ドンドン行きましょ、気になったら即入店笑」
「よっしゃ、行こう笑」
僕の服選びが終わったら、今度は沙耶が服を見に行きたいと言い出した。
彼女の服の好みは、ややハイセンスで、エレガントだ。
彼女が試着して出てくるたびにその美しさに見惚れる。
そして何より、着替えを終えてカーテンを開けた瞬間に舞う彼女の香りが素敵だ
「さっきの店員さん、本当に親切だったよね」
「うん、パーフェクトだった」
「見て!VRだって!」
「お城の中を脱出するゲームだね。クリーチャーも出てくるんだ〜汗」
「やってみましょうよ!」
「う、うん!面白そうだ」
人生初のVRゲームを大好きな人とプレイできるなんて嬉しい、
だがちょいとビビる笑
この後も、映画に喫茶店、雑貨店をひたすらに巡った。
夕食の時間になる頃、僕はなにか嫌なものを感じていた。
それは、いつもの沙耶じゃないような、そんな違和感だ。
友人から彼女になったから変わる態度や雰囲気とは、全く違う。
なにかこう、とにかくざわざわするんだ。
そう、まるでこのデートが最初で最後の様なそんな感じだ。
「なにそこで突っ立てるの?早く入るよ!」
「う、うん」
なんてカジュアルでアットホームなイタリアンなんだ。
店内は、10人〜15人くらいしか収まらないだろう大きさで、店員さんも良い意味でゆるりとしていて、居心地がいい。
「なに頼む?」
「マルゲリータピザにペペロンチーノ、あ、ローズマリー風味のポテトも頼む」
「いっぱい食べるね〜笑 私は、ボンゴレと〜、あとはあなたのつまむ笑」
「わかった笑、あっ、コンソメスープ頼む?」
「頼む〜」
「食後はコーヒー?紅茶?」
「紅茶!」
注文を済ませて食べ物を待つひとときは、少しだけ落ち着く。
「幸来、なにか心配事?」
「ん、いやあ、なんでも」
「んー、わかるぞ〜、夕方くらいからなんかずっと考えことしてるでしょ〜」
女性はなんでこうも鋭いのか。。
「いやなんか、いつもの沙耶とちが」
「お待たせしました、オニオンスープです」
「あ、ありがとう」
いつもタイミングよく来ないな、こう言う状況に限って笑
まあ、店員さんも好きで割り込んでる訳でないのは、よくわかってるけど。
夕食を二人でお腹いっぱいに平らげた後、僕はコーヒーを一口飲んで、意を決して聞いた。
「今日、沙耶がいつもの沙耶じゃないって感じるんだ。恋人になったからか、違う。そういうのじゃない。何か別のもっとずっと大きなものがある気がする。それを考えてた。」
「ずっと考えてた」
「ん?」
「幸来の考えてることはあってるよ。今日、いつ言えばいいか、ずっと考えてた。でも嫌で嫌でしかたなくて、今を楽しみたい、それを思ってずっと過ごしてた」
これはなんだ、どういう状況だ。。
「でも、もう言わなきゃだよね。帰る間際なんて、ダメだよね、きっと」
人生で初めて呼吸を忘れそうになった。
これは、誰でもわかる、良い報告ではない。。
「私ね、来週の日曜日にシンガポールに行くの」
「シンガポール」
「うん、父の会社のシンガポール支社の人が突然倒れてしまって、それで急遽父が呼ばれてしまったの。だから、1週間後にはそっちに行きなさいと会社から緊急辞令が出たの。」
「そんなこと、あるんだね。。」
「うん、、」
しばらく沈黙が続く。
お互いに最後の一口なのに、全く進まない。
そんな時、館内アナウンスが流れた。
間も無く中央ホールでホテルの20周年記念パーティーが始まるそうだ。
このダンスパーティーが、今日のデートのラストを飾る、予定だ。
「お会計お願いします」
手をつなぎながらお互い一言も離さず、お店からパーティー場へ向かう。
到着するともう既に会場は、大勢の人で賑わっていた。
「もうすぐでカウントダウン始まるね」
「うん、そうだね」
20時まで残り10秒
みんなのカウントダウンの声がホール全体に轟く。
「3・2・1、20周年おめでとー!」
クラッカーがあちこちで鳴らされ、
天井からはこれでもかというくらいの金色の紙吹雪が舞う。
控えていた楽器集団が、一斉に明るくめでたい曲を奏でる。
「踊っか」
「うん、踊ろう」
まだ舞う金色の紙吹雪の中を踊る彼女の姿は、燦然と輝き、
時より僕に見せる哀愁味のある表情は、悶えそうな程に愛おしかった。
気づいた頃には、お互い涙を流して、それでも踊り続けた。
まるでダンスをやめたら、もう二度と会えなくなると言わんばかりに。
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