第10話 幸せは耳元で
世界史の授業が終わり、数学の授業が終わり、2連続英語が終わり、やっと放課後になった。英語2連続はいつもタフで長く感じるが、今日は特にそう思う。
理由は、単純。沙耶に思いを伝えに行きたくて仕方ないからだ。
沙耶に今日会えるかLINEで聞いた。学校が終わったらなる早で連絡してくれることになってる。
「あれ、幸来帰らんの?」
優太が送迎ロータリー方面の曲がり角から僕に聞く。
「ん?今日はちょっと寄るとこあって、その後すぐ帰る感じ」
「そうなの?んじゃまた明日!まりなもまた明日!部活頑張って〜」
「ど〜も〜」
帰りの挨拶を済ますと疾風の如く優太は消えた笑
「ま、せいぜい頑張りなさいよ」
「えっ!」
「いやわかりやっす笑」
「なんかもう、怖いっす、まりな先輩笑」
「健闘を祈る」
そういうとニタニタしながらまりなは、部活部屋のある方向へいつも以上の早歩きで消えていった。
「ふう、頑張るとするか。」
この日本人学校には、生徒や職員に人気のある憩いの場が、校舎中央にある。
そこは、自然豊で噴水もある公園である。
放課後は昼間と違ってひとけが一気に減る場所でもある。
沙耶とは、ここで待ち合わせになっている。
「我ながら、行動が早いの笑」
彼氏と別れたことを知ってすぐに告白しにいくとは、我ながらなかなか度胸が座っている笑
待ち合わせ時間より10分くらい早く着いた。
時より横切る教師や生徒にどぎもぎしながら、ただ待つ。
どう告白するかは、ちゃんと頭にまとめてる。
口にできるかは、、別として。。
「耳かして」
声がした。沙耶の声だ。いつの間に背後に笑
「ん?」
「好き」
先に気持ちを伝えられた。
「僕も、好きです」
二人して赤くなる。
というか、後ろから急に来て耳元で好きってどういう告白状況笑
「両思いで、よかった。こ、これからよろしくね笑」
「はい、お願いします笑」
送迎ロータリーの一歩手前の脇道には、一瞬の暗がりがある。
そこで僕たちは、キスをした。
幸せに心躍る時間。帰りの車から眺める景色は、いつも目にする光景となんら変わらない。それがどうだろう、なんと色鮮やかで美しいことか。
これからどうしようか。どこに行こうか。週末にどんなデートをしようか。
そんなこと考えていたら、あっという間に自宅に着いた。
「ポール、ありがとう」
「幸来さん、また明日!」
「おめでとうございます」
夕食の直後、こそっと僕にアルテアさんが、耳打ちしてきた。
「え?」
「表情で分かりますよ笑」
「そ、そうなの?」
まりなといい、アルテアさんといい、すごいな笑
「ええ、まあ」
「でも、はい、おかげさまで笑」
夕食後に電話で彼女と電話することになっている。
「もしもーし」
「あっ、沙耶」
「いい夜だね〜」
「そうだね〜」
「週末のデート、どこに行く?」
「クローバーモールよりもう少し先に行くと、エディンバラホテルがあるみたいで、今週末は、創立20周年記念らしくて、色々と盛り上がるみたいだよ」
「え〜楽しそう。よくそんな話、見つけてきたね〜笑」
「いっぱい調べた笑」
「じゃあそこに13時集合なんてどーお?」
「うん、13時にエディンバラホテルのロビーで待ち合わせ」
「明日ラスト1日、日曜日の楽しみの為に勉強、授業がんばろう!」
その後も沙耶とは30分くらいLINE電話をした。
たくさん話してたくさん笑った。
恋愛って程遠い何かだと思ってたけど、こんなにも日常が輝かしく楽しく感じられるとは、思いもしなかった。
何か新たに学んだこと、知ったことを後で沙耶に伝えたいと感じる。
これが誰かを好きになるということなのか。
これが、自分以外に自分と同じかそれ以上に大切な存在ができるということなのか。そして、次の瞬間、きっと誰もが感じたことのある恐怖も知った。
もしも、もしも彼女が自分の隣から立ち去ってしまったら、自分はどうなってしまうのだろうか。交際初日にこんなことを感じるなんて、縁起でもないが、ただその恐怖を思ってしまった心がこの胸にある。そして、この黒い波紋は、瞬く間に心中を身体中を巡っていった。
いつの時代も、世界中どこであっても
初恋とは眩しい思い出になりがちで
だからこそ宝石のように輝かしいものなのである。
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