第4話 恋はいつも一筋縄ではいかぬもの

日本では、考えられない暮らしがここにはある。

マニラに来て3日目、昼食の支度をキッチンでメイドさんが行ってくれている。

彼女の名前は、アルテアさん。29歳で住み込みのメイドさん。すらっとしていて、綺麗であり可愛らしい、そんな人だ。

「幸来さん、お食事のあとはしばらくお部屋にいらっしゃいますか?」

「そうだね、母と車で出かけるかもしれないけど」

「承知しました。では、お部屋の清掃は、その間にさせて頂きますね」

「うん、ありがとう」

父さんは、今日も朝から仕事で外出している。

母は、部屋で仕事の準備をしているようだ。

「母さん、この後買い物とかで出かける予定?」

「そうね、息抜きにカフェでも行こうかしら」

「何時くらい?」

「15時なんてどうかしら?」

「うん、わかった!」

あと1、2時間ある。

Wi-Fiが使えるようになるのは、明日みたいだから、今日1日の辛抱だな笑

そろそろネットフリックスの禁断症状が笑

「勉強するか」

得意科目である世界史を勉強の取っ掛かりにしている。

ローマの五賢帝の名前なんて覚えて、将来生きていく上でなんの利益をもたらしてくれるんだろう、なんてことを考えながら、あっという間に出かける時間になった。

沙耶さんは、今頃学校で授業を受けている頃だろう。

今週末にデートのお誘い、してみようかな。

「つきましたよ、お二人とも」

「今日もありがとうね。これコーヒー代ね」

「ありがとうございます!」

「ポールはいつも元気で明るいね、黄色信号で思い切り飛ばすのは、ちょっと嫌だけど笑」

「そうね笑」

「私は、昨日見つけたカフェに行くけど、幸来はどうするの?」

「新しいカフェ見つけてそこにするよ」

「わかったわ、じゃあ17時にロータリーに直接集合しましょう」

「はーい」

勉強するのにちょうど良さげなカフェを探したが、なかなか見つからず、

結局昨日沙耶さんと過ごしたスタバに来店。

日本と違い、こっちのスタバはそこそこ空いている。

キャラメルフラペチーノを飲みながら英語の勉強を始めた。

デートのお誘いをして良いものだろうか。

まだ時期尚早か。

自分の気持ちは、昨晩にまとまってる。

これは、完全に一目惚れで、自分が心から彼女に恋してることは、わかってる。

あとは、沙耶さんが自分に対してどういう感情を抱いているかが問題だ。

でもまあ、こればっかりは、気にしていたってどうしようもない。

思い切ってLINEしよう。


「ちょっと、遅いんじゃない?もうポールさんも来てるわよ」

「ごめんごめん」

LINEでなんて誘うか考えあぐねてたら、勉強時間が10分くらいしか無くなって、

駆け込み勉強していたら母さんとの待ち合わせ時間に15分も遅れてしまった。

「明日は、やっとネット環境が整うわ。仕事の準備で丸一日潰れそうだから、もしも車を使いたいなら、家に着くまでに何時にポールさんに迎えに来てもらうか、決めなさいね」

「あ、うん」

さっきLINEしたから、学校終わりのあれこれも含めて、返信は、だいたい18時くらいかな。

沙耶さんには、LINEで日曜日にランチのお誘いをした。食後にどこか立ち寄るのもあり風に伝えたけど、果たしてなんと言われるだろうか。

「つきましたよ」

「今日もありがとうね、ポールさん」

「明日も15時に来てください、ポールさん」

「わかりました!」

「夕方には、お家へ戻ってくるのよ」

「はいよ〜」


「いつも夕食の準備を手伝ってくれてありがとね、アルテア」

「いえ、これが私の仕事ですから」

「母さんは、料理が好きだから、夕食は二人で作るんだね」

「そうそう笑」

「ただいま」

「あら、お帰りなさい、父さん、もうすぐできるわ」

父さんは軽く母さんに会釈し、僕に話しかけてきた。

「幸来、勉強は順調か?」

「うん、毎日コツコツやってるよ」

「そうか、こっちの暮らしには、慣れたか?」

「うん、適応できてるよ笑」

「そうかそうか笑。勉強は、英語と世界史と現代文か?」

「うん、私大文系で必要とされる科目を勉強してる」

「父さんの仕事は、どれくらいこっちかわからない。長期の場合には、幸来と母さんとで途中帰国を一旦してもらうつもりだ。大学受験は、日本国内ということが現段階では、一番濃厚だからな。」

「やっぱりそうだよね、わかってる」

「まあもちろん、急遽日本に戻る可能性も少なくないがな」

「そうなんだ笑」

「さあ!できたわよ!」

「今日も豪華だな〜、いただきます!」

「あなたは明日もお仕事なの?」

「ああ、日曜日はしっかりお休みをとるけどな。日曜日、どこかに出掛けに行くか?」

「あら、いいじゃない!幸来はどこか行ってみたいところある?いつもクローバーモールじゃ飽きちゃうんじゃない?」

しまった。日曜日は、沙耶さんとデートに行く予定だ。

「いいね!明日ネットで行きたいところいろいろ調べておくよ」

好きな人との時間も大切だけど、家族との絆も変わらず大事だ。なんとか時間の折り合いをつけれないか、まずは、いったん考えてみなければ。


食後、自室に紅茶を運び、勉強の準備をした。

そんな時、LINEが入ってるのが見えた。

そして凍りつく。

沙耶さんには、既に彼氏がいて、その彼氏に行くことを阻まれたらしい。

その上、その彼氏は同じ日本人学校に通う同級生だった。

僕の気持ちとは裏腹に、机の上の紅茶の湯気がゆらゆらと立ち上る。


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