第2話 目に映るもの全てが新鮮で

「到着いたしました」

そう言うとジョセフさんが、父さん、母さん、僕の順に下車を手伝った。

「直美、ちょっと」

「どうぞ気にせずに」

父さんは、家に着くなり、家の庭先で仕事の電話をかけた。

「奥様と息子様のドライバーは、明日の9時頃にこちらへ参る予定です。」

「そう、わかったわ」

「旦那様へは、私は明日の8時に参りますとお伝えいただけないでしょうか。」

「大丈夫よ。ご苦労様」

「ありがとうございます。それでは失礼させていただきます。家具等の家財は全て、家に搬入済みです。」

「ええ、聞いてるわ。ありがとう」

「申し遅れました。住み込みのメイドですが、2日後の木曜日のお昼頃に挨拶に参るそうです。」

「そうそう、すっかり忘れてたわ。ありがとう。実際の住み込みは、来週月曜日からでしたっけ?」

「その通りでございます。」

「何から何まで助かるわ」

「いえ、それが私の務めでございますから」

そう言うとジョセフさんは、爽やかに車で立ち去っていった。

「さあさあ、家財の整頓を始めるわよ」

「はーい」

玄関を開けて驚愕した。床一面大理石ではないか。しかも部屋の大きさが尋常なく広い。

「これ、どんだけ広いの、この家」

「そうね、日本じゃありえない広さね笑」

どでかい玄関の扉を開けて広がる大理石のリビング、その横にはキッチンと食卓専用の空間。キッチンの裏側には、メイドさんのお部屋かな。玄関近くには、トイレとシャワールーム。リビングの端のこれまたどでかい大理石の階段を上がって2階に行くと、大部屋が4部屋。その内の1つが僕の勉強部屋、というか専用部屋。父さんと母さんそれぞれの部屋が残りで、後1つはなんか適当にって感じかな?いやもう、何もかもが規格外で頭がおかしくなりそうだ。2階から下を見下ろすと、父さんがお庭のど真ん中で、まだ電話してる。

「あははは」

僕は、つい笑ってしまった。なぜかって、お庭もアホみたいに大きいからだ。父さんは、身長176センチでガタイもいいのに、こんなにちっこく感じるなんて、笑うしかない。ちなみに、母さんは、160センチで、僕は169センチ。

「ほらこれ重たいから運んで〜」

「はーい」

引越し後の手伝いは、想像通り大変だったが、なんとかひと段落できた。

「とりあえず今日は、ここまでね。続きは、明日ね」

「りょーかいです、ショッピングモールは、明日の楽しみにとっておくよ笑」

「そうね、それに車は明日だったわね笑」

「夕飯が届いたぞ。」

「ありがとー」

そう言うと二人は、夕食の支度を自然に始めた。

いつのまに父さん、デリバリーなんて頼んだんだ笑

こう言う行動の速さが、やっぱり仕事でも光ってるんだろうな〜

なんかやっぱりかっこいいな。普段は、仕事に全集中なのに、家族の要点は、外さずに抜け目ないんだよな笑

全集中で思い出した。ここ、ネットフリックス見れるのかな。。

あとで聞いてみないとな。


「おやすみなさい」

「おお、ゆっくりと休むんだぞ」

「はい」

部屋で仕事をしていた父さんに挨拶した。

母さんは、部屋で日本の友人と電話してたので、そのままスルー笑

「それにしても広いな、この家。この部屋」

うとうとしながら改めてこの部屋の広さをかみしめた。

「ショッピングモール、名前なんて言うんだっけかな。確かクローバーモール?だっけ」

独り言を言いながらフィリピン初日の夜は、更けていった。


朝の7時、スマホのアラームで目を覚ました僕は、ルーチンであるワークアウトを始めた。

「今日は、胸筋だな。」

ダンベルがまだ見当たらなかったので、腕立て伏せなど自重でできるメニューを30分こなした。

「シャワー浴びよ」

これまたルーチンの朝シャワーを浴びた。

シャワー室の小窓から小鳥たちのさえずりが聞こえてくる。

「いや、ここ天国かよ」

シャワーを浴びてリビングに行くと母さんが先に朝ご飯を食べていた。

「あら、おはよう。これ、幸来(さき)の分よ」

「ありがとう。フルーツいっぱいだね笑」

「ジョセフさんが、早めに来て朝ご飯の材料を諸々運んできてくれたの」

「すんご笑」

「父さんは、もう食べて仕事の準備をしてるわ」

「いやはや、感心ですな笑」

「事業所の立ち上げからだから、休みなんてないのでしょうね」

「敬服いたします笑」

「さあ、朝食後は、9時にクローバーモールへショッピングに行くわよ」

「おっ!それは楽しみだ!」


朝食後の隙間時間に昨日の片付けの続きをしているとあっという間に9時になった。

「始めまして、ポールです。よろしくお願いします」

「始めまして、これからしばらくお世話になるわ。こちらは、息子の幸来よ」

「始めまして、お会いできて光栄です」

「ポールさん、こちらこそお会いできて光栄です。」

「それでは早速、出発いたしましょう」

自宅からクローバーモールまでは、車で20分だった。

「しばらくここに滞在するから、13時に戻ってきて頂戴。これはランチ代よ」

「奥様、お気遣いありがとうございます」

「ランチ代なんて渡すんだ。面白いシステムだね笑」

「そう、これがドライバーさんへの対応の仕方だそうよ」

「へえ〜」

全く、ため息が出るくらいここもバカでかい笑

モールの入り口までは、ヨーロッパの宮殿を思わせるかの様な真っ直ぐな直線道があり、それまでの道中には、噴水が清らかにモールを飾っていた。

「なんなんもう、どんだけ豪華なモールなの」

「そうね。ショッピングが楽しみになるわ笑。母さんは、日用品やら何やらを買い回るわ。あなたはどうするの?」

「んー、モールを散策したいな〜」

「全然いいわよ、私もカフェでコーヒー飲みながら少し仕事もしたいから。12時に入り口で一旦落ち合いましょう。」

「それで、お昼食べて、ポールのところに向かうって流れね!」

「そーう!それじゃあね!」


「さーて、どっから攻略しようかな〜。おっ!マップ見つけた。3時間で足りるかこれ笑」

モールの中は冷房ガンガンだが、さっきまでの外の暑さが、まだまだ体内に残っている。と言うことで、モールを中央突破して、中央公園のギリギリ内側、室内側にあるハーゲンダッツを目指すことにした。そしてこれが、僕の運命の歯車が回り始めるトリガーとなるとは、この時の僕には、ほんの少しも知る由は、ない訳であった。恋とはいつも、突然に、だよね笑

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