第39話 伝言ゲーム ●万田恵美寿
すると。
いた。
真っ黒いドレスを着たドコゾの姫さんが、何喰わぬ顔でボタンを足蹴にしていた。
「どこ行ってたのー!?」
「ちょっと席を外してただけです」
腕を腰に当てて、ほんと、べつになんでもありませんけど? みたいな偉そうな表情(でも頬はちょっと赤い)で言ってくる。追求するのも面倒くさくなって、あたしは訊く。
「まあいいや。んでさ。中庭に穴があったんだけど、問題文読めないんだよね。姫ちゃん意味わかる?」
空穂ちゃんがタブレットを取り出して、姫ちゃんに見せた。映っているのはさっきの文。
「ハロー・グッバイ――日本語だとこんにちは、さようならですね。これは例題が多すぎますが、有名どころだとビートルズですかね……どこでこれを?」
中庭にあった穴のこと、二つの問題文、扉の存在、見てきたことを全て話した。
「ふうん」
あたしの話を聞き終えた姫ちゃんは、しばらくして、そう呟き、顎に手をやった後、
「ふうん」
と、同じ言葉を吐いて得意気に笑った。
「問題の意味が分かりました。今回は千真さんの手を借りることもないですね」
「ほんとに? いつも千真ちゃんの後塵を拝している姫ちゃんが? 今回に限って?」
「何故に突然辛辣……。排しては……まあ、いますけど……でもべつに競ってないですし……とにかく! 今回は合ってると思います! 今回は!」
そう言って指一本立てた。
なんで怒ってるの。
「ハロー・グッバイ。この言葉だけでも何となく中津先生の言いたいことは分かります。ハローとグッバイ。こんにちはとさようなら。反対の言葉ですよね。出会いの言葉と別れの言葉。そして、ハローとグッバイは扉の片方ずつに別れて書かれていた」
立てた指でタブレットを指差した。
「左の扉にはハローの文字とボタンが。右の扉にはグッバイの文字と鍵穴が。ボタンを押して扉を開いてみれば、終わりが見えないくらいに扉は分厚かった」
「ギリギリ見えたくらいかな? でもそれ以上動かなかった」
死ぬほど重たかった。挟まれたら大怪我しそうなくらい。
「例え、鍵を見つけたとして――、片方の扉がそうなんですから、もう片方の扉もそれ以上はいくら押しても開かないんじゃあないでしょうか?」
「え? でもそれじゃあ……」
あの分厚い扉の両方が、あの角度以上に開かないところを想像する。
「それだと人が……」
「ええ。それだと、扉が邪魔して人が通れませんよね」
二人で角度を調整して開ければ、その隙間からいけるんじゃないかなあと思うけど、やっぱりもうちょっと扉が動いてくれないとそれが出来そうにない。
押してダメなら引いてみろ? でも、取っ手も何もないあのバカみたいに重たい扉をどうやって引けばいいのっていう。手を入れて? だからそれが危ないんだって。そのとき、
「あ! わたし、分かったぁ! 片方の人が扉を押して、片方の人が扉を引くんだね! そーすれば、隙間が大きくなるもんねー」
「なんで言っちゃうんですかー!」
唐突に空穂ちゃんが回答を叫んで、姫ちゃんががっくりきていた。かわいそうな姫ちゃん。
姫ちゃんって、基本いっつもこんな感じ。
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