第37話 伝言ゲーム ●万田恵美寿
● 万田恵美寿
「Ⅳって、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、ⅣのⅣだよね? ドラクエとかFFとかであるやつ。あれ? ⅡとⅢってあったっけ?」
「I(アイ)じゃなくてⅠ(ワン)だったんだねー……やっぱり」
「すっ飛ばしたとか?」
「そうだねー……んー……」
目の前の鉄扉には見慣れた字体で英語が並んでいるけれど、あたしたちは英語が読めないからその意味することは分からない。でも、ハローだけはなんとなく読めた。ヘローって読むのかな? 挨拶だよね。それがどうしたのって感じなんだけど。
「押してみる?」
「うん……」
不安そうに。その反応も分かる。右の扉にある鍵穴が気になって仕方ない。このまま押しちゃって変なことにならないのかなって不安がある。
とりあえず押してみよう。そうするしかない。
「ふんぬぬ……!」
おっもた!? なにこれ!? 千真ちゃんたちこんなのずっと押してるの!? 意味わかんない!! けどでもボタン最後まで押したら『ガッチン!』って音がした!! 鍵が開いた感じがする!! いける!! いけるよ!! ぐ、おおおおお!! 女の子であるあたしが、声にするのも嫌になるような雄叫びを上げながらなんとか必死になってボタンを押しながら扉も猛プッシュ!!
『グゴゴゴ……!』と、地面を滑るみたいに、扉はゆっくりとだけど確実に動いてる!
「よ、よしっ」
いける!
だがしかし!
「ってえ、なにこれ!? 分厚!?」
体を斜めにして扉に体を預けるようにしていたから、それが分かった。見えてしまった。
右側の扉の異常な分厚さを。
銀行の金庫でもここまで分厚くないんじゃないの? ルパンアニメでしかそんなの見たことないけどさ! って言いたくなるくらいに分厚い扉。だって、現に押しててあたしが扉の終わり見えてないんだよ? 十センチ以上、扉の側面しか見えてないんだけど?
って、ああ、やっと終わりが見えてきた――と思いきや!
「ってぇ!! ええ!? これ以上先行かないんだけどー! 空穂ちゃんそっち動く!?」
「むりー!」
空穂ちゃんが必死になって反対の扉を押している。が、扉はぴくりとも動かない。空穂ちゃんが非力だからってことはない。あたしはこの四人の中で誰より身長高いけど、一番身体能力優れてるのは誰って訊かれたらもちろんあたしじゃなくて空穂ちゃんだ。その空穂ちゃんが必死になって動かないってことは――。
「たぶんこっち側絶対鍵掛かってるよー!」
「だ、だよね……」
『ズゴゴゴ……』
体を離すと扉は元の位置に戻った。
『DANGER!!』――危険ってのは、たぶんあれだ。下手に手を出したら挟まれるから危険って言いたいんだな。穴や階段は落ちたら危険だったけど。
「これ、あたし知ってる。二つ揃わないと意味がないアイテムとかそういうアレだよ。RPGでよくある仕掛けだよ。たぶん。これ」
はあはあ息を吐きながら言う。空穂ちゃんも頷いてくれた。言葉足らずだったかもしれないけど。ゲームもそこそこやってるから伝わるはずだ。はあ。今日のあたしは何時になく冴えてるな。だって。
「だってⅣとか書いてあるし。……Ⅰってどこにあったんだっけ? ①②③④と来てたからたぶんこっちの扉は正しい順番で来てるんだよ。ⅡとⅢはやってないもん。見つけてないもんね」
「えっと……あったあったこれだ」
『②&Ⅰ(ワン)』
『Andy Warhol』
『DANGER!!』
空穂ちゃんがタブレットを操作して例の写真を見せてきた。いつの間にやら撮ってたらしい。相変わらず、ぶれぶれで見にくかったけど、今は見られればよかった。
けど、見たところでっていうね。
そう。何か忘れてる。
というか、あたしが見つけてそのまんまスルーしてる物体があったはずだ。
「そういえばさ。脚立使ってないよね」
「たしかにー」
「かにかに。姫ちゃんに訊いてみよっか」
薄暗い階段を駆け上がってすぐさま外へ。日光はまだまだ厳しい。十五時を回っても気温は下がる気配を見せない。
千真ちゃん大丈夫かな。無理してないといいけど。無理するからなあ、千真ちゃん。
……さっさと終わらせなきゃ。
「あれ?」
「あれ?」
あたしと空穂ちゃんが声を上げたのは同時だった。そこにいるはずの姫ちゃんが消えていた。どういうことだろう。さっきまでそこにいたはずなのに。
人体消失マジック? 芸人根性あるからなあ、姫ちゃん。
「姫ちゃーん?」
呼びかけてみる。反応なし。ぐるりと見渡す。いない。が、視界にトイレが入った。この前もそうだけど、さっきも姫ちゃんと一緒にいたときに調べていたはずだから、すぐ横にいた姫ちゃんもその存在は知ってるはず。もしかして? と思って近寄って、ノックもせずにズバンと開けてみるも。
「いない」
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