第34話 伝言ゲーム ▲白雪姫
▲ 白幸姫
「あの、ちょっと、もし――漏れ……おしっ……うう、行ってしまいました……」
こういうときの空穂さんは本当に人の話を聞かないですね!
いえ、さっき空穂さんと恵美寿さんが居たときに言い出せなかった私も悪いんですけど!
「おしっこ行きたい……」
先ほど慌てて食べたとき、最後流し込むように、水をがぶがぶ飲んでいたのが仇となりました。すごく、すごく、おしっこがしたいです。
「おトイレ、はすぐそこにありますけど」
冷静に考えると、水道の通っていないトイレでおしっこするとか後々すごい臭いになってしまいそうですし、汚れもこびり付いてしまいそうです。人様の家ですよ。あのときの私は尿意と恐怖感でおかしくなっていましたし、恵美寿さんはあの通りの人ですから。あんまりその辺考えてなかったか、もしかすると、どこの誰とも知れない空き家のことなどどうでもよかったのかもしれません。
しかし、今は違います。
持ち主を知ってしまった。
中堅小説家先生(?)中津堅一の持ち家であり、玉藻先生が幼少期を過ごしたという家。
そこを、私のおしっこで汚すというのはちょっと抵抗が……。手放してないということは、何れまた誰かが住む可能性だってあるわけで……。
「となると」
外ですね。
この炎天下ならすぐに蒸発してくれそうですし。
「でも」
行ってしまってもいいんでしょうか?
ここのボタンは天井裏に行くための階段と連動しているはずです。たしか扉もあるとかって言ってました。私は見ていないので想像でしかありませんが。私がここを離れれば、千真さんが降りて来られなくなってしまいます。
扉が閉まることによって、風の抜け道がなくなり、屋根裏全体の温度が上昇する――なんてことにはならないでしょうか?
……ないですね。
あの猫扉もありましたし、例え上の扉が閉まっていても、元々風の抜け道がない構造になっているんですから。間違いありません。
全く。玉藻先生も言っていましたが、かなり面倒な作りです。どちらかと言うと春や秋などの、もっと穏やかな季節に探した方がよかった気がしますが、今更ですね。
「……ううっ!」
その場で地団駄を踏みます。
『カココ……ガゴッ!』
「……はぅっ!?」
危ない危ない。危うく足を離してしまいました……。大体このボタンもよくありません。なんだって、こんな力を入れるような作りにしたんでしょうか。溝になっているため、そこに何か置いておくってこともできません。そんな都合の良いサイズで重量のある物などなかなか無いのです。誰かしら一人押して、ここに居なくてはならない。他のボタンも同様に。
力が必要……!
そして、だからこそ……!
力を入れているせいで、そのまんまおしっこしてしまいそうなんです……!
きゅるる。うっ。
「……少し離れるだけなら」
大丈夫なはずですよね?
一度、冷静になってみましょうか。
空穂さんたちはまだ探してるようです。千真さんは私と同じくしばらくはボタンに付きっきりでしょう。玉藻先生はこの場合、関係ないです。……。
なら。
『カココココ……』
ボタンを離すのと同時に階段が上がる音が聞こえてきました。それを聞くこともなしに、私はいそいそとその場を、内股で小走りになって駈けて行きます。
正面玄関から外へ。
「暑……」
異常気象という言葉が頭に浮かびましたが、尿意によってすぐに消えました。
さて、どこでしましょうか。
おしっこを。
「おしっこおしっこおしっこ」
すぐそこでしていたら、万が一にも、恵美寿さんや空穂さんが来たときにすぐ見つかってしまいます。おしっこしている場面を見られるとか死んだ方がマシです。って、恵美寿さんには既にお漏らししたところを見られてしまったわけですが。べつ! あれはべつです!
そうなると。
影の、端の、庭の隅、あっちへ行きましょう。して、さっと戻って、何気ない顔をして、またボタンを押していればいいんです。幸いにして草はいっぱいです。隠れられます。
うう……早くこの尿意から開放されたいです……!
どんどん離れていく私。
みんなの声が聞こえない方へ。
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