第32話 イス取りゲーム
――十五時になったら開始しましょう。
先生の言葉を思い出し、わたしは館内を恵美寿ちゃんと一緒に走った。
――十二時から十四時は一番気温が高い時間帯ですからね。その時間帯はなるたけ避けましょう。本当は夕方が良いのですが……、あなたたちにも門限はありますよね? はあ。この前ので厳しくなった? だったら尚更ですね。私も一応教師という立場上、あんまり遅くするのは……。ボタンの人員の配置も変えますか。私はあの穴を。何があるかわかりませんからね。屋根裏は……。
――私行くよ。何かを見つけるなら空穂の方が得意だから。
――よろしくお願いします。ペットボトルに水は入れておきますから、水分補給は忘れずに。喉が乾く前に飲むことが肝心ですよ。危険を感じたらすぐ外へ出ても大丈夫ですから。では、正面玄関のボタンは白幸さんがお願いします。
――わかりました。
――それとこの脚立、玄関ホールに置いておきますね。
庭の鉄穴は浅かった。洞窟みたいなのかと思ってたら、それでも、五メートルくらいはあったんだけど、先生は穴の内側に付いてるハシゴを使わず、一気にジャンプして下まで降りたからびっくりした。
穴の底で見つけたのは次のボタン。残念だけどお宝はやっぱり見当たらなかった。同じようなボタンに、同じような文字があった。
タブレットを先生に貸して、穴の中から文字を撮影してもらった。
写真を参考にして、館内を駆け巡る。文字は、
『③』
『①The Division bell』
『DANGER!!』
と、書かれてあった。
「ディビジョン? 分割、仕切る、分担とか、まあ、そんな意味ですね。ベルはそのまんま鐘です」
先生が片手を壁のボタンに付いたままの姿勢で、穴の底から言った。穴の中もあっついかと思ったら、影になってるからか大分ひんやりしていた。
「ふうん。分けるための鐘? 鈴?」
「じゃあ、お屋敷の中からベルを探せばいいんだね?」
「たぶん……①はよくわかんないけど……」
今の段階だとなーんにも。
「なるはやでお願いしますよ。これ押してるのけっこう力いるんで」
「はーい」
鐘は大きいイメージ。除夜の鐘……えっとあと教会にあるカロンコロン? そんな物があのお屋敷にあったら絶対目に入るはず。手のひらサイズの鈴・ベルを探せばいいんだ、たぶん。
そう思って、わたしたちはお屋敷中を時間掛けて這い回って探した。
下を見て下を見て。上を見て上を見て。棚があったらそこも見て。荷物があったらひっくり返して。キッチンもライトを点けて隅から隅まで探した。けれど、見つからない。
このとき、わたしは目の前のことに夢中になり過ぎていたと思う。周りが見えなくなっていて、確実に遠回りをしていたと思う。
訊けばいいのに。
今までのことを思い出して、誰が分かりそうなのかを思い出して。
時間が経てば経つほど、汗はどんどん流れ出た。
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