第31話 イス取りゲーム

 スーパーはお屋敷から十五分ぐらい歩いた先にあった。コンビニだったらすぐ近くだったのに。先生が思いっきり嫌がったから仕方なくみんなで歩いた。

 みんな先生に奢ってもらう気満々だったからあまり文句は言わなかった。

 スーパーで六十円くらいのおにぎりを一人二個、二リットルのミネラルウォーターを一本と紙コップを買ってお屋敷に戻った。行きと帰りは死ぬほどあっつくてみんなそのことにうだうだ言っててあんまりお話出来なかったけど、お屋敷に戻ってからはみんな元気になったみたいでわたしはすごく嬉しい。そして鮭がおいしい。

「玉藻せんせーはどこに住んでるの?」

 わたしたちは正面玄関ホールのでっかい階段に腰掛けていた。他に座りやすい場所もなかったから。

 恵美寿ちゃんがシーチキンのおにぎりを一口齧る。ほっぺにごはん粒が付いている。横に座っている千真ちゃんが何気なしに指でぴってやって自分の口へと運んだ。

「T市ですね」

「え。とお」

 先生が口に出したところはわたしたちの隣の市。

「車持ってないって言ってませんでしたか?」

 姫ちゃんはまだおにぎり一個目。一番食べるの遅い。メニューは昆布。そんなところまで黒くしなくてもいいのに。

「自転車で通ってます。今日も自転車で来ました」

「……それはまた。大変ですね」

「だからあの車は助かります。大学も遠いんですよ。祖父の小説のモデル地も多くは自転車で行ける距離じゃありません」

「ん。あ、そっか。ここに隠されていない可能性もあるんだ」

「そういうことです」

 千真ちゃんの呟きに先生が答えた。ちなみに千真ちゃんはもう食べ終わっている。

 わたしはなんとなく気になって尋ねる。

「先生って先生になるの?」

「は?」

「えっと」

「ちゃんと先生になる気はあるのかって訊きたいんだよ、空穂は」

 わたしの言いたいことを千真ちゃんが言い直してくれる。

「……ああ。正直悩んでいますね。やってみると大変ですよ。小学生の相手してればいい楽な仕事だと考えていたのですが、想像以上にやることがいっぱいあって。まだ一週間も経っていませんが」

「あはは。ひっど」

「教員免許だけ保険として取得しておこうかなと。しばらくは祖父の遺産で食べつつ、祖父の置き土産探しに――って、なに泣いてるんですか?」

「ふっ……ふっ……」

「あーあーもう」

 千真ちゃんが涙をハンカチで拭ってくれる。わたしは自分でも知らず知らずのうちに泣いていた。こみあげて止まらない涙。先生は先生になって欲しい。わたしは三年生から四年生に上がるときのクラス替えを思い出している。一度切れちゃうとほとんど遊ぶことのないお友達たち。仲が良かったと思っていたのに。廊下ですれ違っても、他のお友だちと仲良さそうにしているあの子を見て、何故か涙を流しているわたし。いつも通りに慰めてくれる千真ちゃんに、ひたすら変なこと喋ってる恵美寿ちゃん。

 これっきり。これっきりっていうのがいやなんだ。せっかく仲良くなったのに。ずっと一緒にいていたい。

「はあ……いや、まあ仮に先生になったとしたって、ここの学校に入れるとは限りませんし、もし例えこの学校に就職できたとしたって、あなたたちを受け持つ可能性は今の先生がいる以上無いわけで……私の言ってること、間違ってますか?」

「それを今言っちゃう辺りが盛大に間違ってると思います」

 姫ちゃんの呆れたようなツッコみにわたしはくすっと笑う。ちょっと回復。

「ねえねえ、そんなことよりさ。お宝探そうよ。あたしもう食べ終わっちゃった」

「待って下さい! 私はまだ食べ終わってません!」

 時刻は二時過ぎ。


 後半戦開始。

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