第19話 宝探し
「祖父が一発当てた本の稼ぎで食いつないでいるだけの家族です」
本当に立派じゃなかったです。ろくでなしにしか聞こえませんでした。
本の稼ぎ? 皆の疑問の視線に応えるように玉藻先生は言いました。
「祖父は、小説家の中津堅一といいます」
「一発どころじゃないじゃん!」
「千真ちゃん知ってるの?」
「嘘、知らないの? 中津探偵シリーズ」
「よく知ってますね。小学生なのに」
ナチュラルにそういう言い方をしてしまう辺り、あんまりこの人教師には向いてないのではないでしょうか。他人事ですけど。ちなみに私は名前だけ知っています。小説事態正直読んだことがありません。
「知ってるよう。映画化もされてるし、原作も全部読んでるよ。でも、原作途中で終わっちゃって残念だった」
「ありがとうございます。あの世にいる祖父もあなたのようなお若い読者がいると知ったら泣いて喜びますよ。晩年は出来がパッとしなくて、業界では大御所なのに、名前通りの中堅作家になってしまったなんて揶揄されていたので」
「えー。最後の方のが面白かったけどなあ、私」
「売れてはいましたね」
「……それで?」
もうツッコむのも面倒くさくなったので続きを促すことにします。千真さんがぶつぶつ文句を言い、空穂さんが眠そうにあくびを漏らしました。
「中津堅一が晩年、評価を落とした理由の一つに、出てくる建物全てに秘密の抜け道などの特殊なギミックをふんだんに盛り込んだことが挙げられます」
「あれ、すっごいわっくわくした!」
なるほど。千真さんが好みそうです。そのとき、ふっと玉藻先生が微笑んだかのように見えましたが、私が顔を向けたときには、先程までの真顔に戻っていました。あんまり笑うってことをしない先生ですね。
「純粋にミステリを楽しんでいた読者はそれで離れていきましたが、広義のミステリやエンタメとして読むなら、私自身、初期中期より後期の方が傑作だと自負しています」
「あなたが書いたわけではないのだから、この場合自負は違うのでは……」
思わず出てしまったツッコミにも気付いていないのか、玉藻先生は喋り続けます。
「その晩年の九作――中津探偵シリーズの中でも、とりわけ評価が分かれる九作――
『大貧民の城』
『家庭内別居推奨、二世帯住宅の謎』
『学校ゲーム』
『ホームレス女子中学生ミキ ~段ボールハウスへようこそ~』
『ヤカタイタン』
『たわわな果実はタワーでお戯れ』
『ちょっと、だんちー!』
『病院と美容院』
『猫と猿の社』
……以上が発表されている中津堅一の中津探偵シリーズ後期作品群になります」
ふざけたタイトルだこと。後半なんかはもう完全にダジャレにしか思えないんですけど、作者様による深淵な理由付けでもあるんでしょうか。
「ネコ? ねっこ? 根っこ……猿は……あ~」
「タワーでおたわむれだって」
退屈そうにしていた空穂さんが何事か仰っていましたが、私にはよくわかりませんでした。何か気付いたのでしょうか。恵美寿さんは何が琴線に触れたのかくすくすと笑っています。
「それがどうかしたのですか?」
「作中で出てきたどの建物も実在する可能性が出てきたんです」
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