第18話 宝探し

「おい、ドロボー!」

「君たちの世代でも、鬼太郎は知ってるんだ」

 給食を食べ終え、教室を出て行こうとする大学生に、千真ちゃんが裏声で呼びかけました。

「ちょい前にやってたからねえ」

「泥棒は訂正してください。私には玉藻という立派な名前があるんです」

 玉藻先生が腰に手を当て、憤然とした様子で言いました。

「それだと、自身が泥棒をしていたことは認めたようにも取れますが」

「あなたは確か……あぷあぷしてた……」

 ツッコんだ私に玉藻先生が目を向けました。

「白幸姫です。白幸が名字で姫が名前です。以後、お見知りおきを……あぷあぷは余計です」

「ていうか、昨日のあなたたちも名前聞いてませんでしたね。名乗ってください」

 ……この御方、少々変わってますね。会話のペースも独特ですし。

 名乗ってくださいって。丁寧なんだか、失礼なんだか。

 恵美寿さんと同じにおいがします。ぷんぷんします。

「万田恵美寿(まんだえびす)。万田が名字で恵美寿が名前!」

 それは言わずとも分かりますね。

「我こそが麗日千真である」

「玉仁和空穂だよ~」

 空穂さんが名乗ったところで、玉藻先生がひくっとなりました。どうかしたのでしょうか?

「はあ。で。どうしたんですか?」

「昨日の理由! 嫌でもわかりますって言ってたけど、意味わかんないままなんだけど!」

「ああ、たしかにそうですね。なるほど分かりました。事情をお話しましょう。どこか人があまり来ないところへ私を連れてって下さい」

 千真さんが不満そうに言い、それに呑気に玉藻先生が応じました。

 普通、案内して下さいとか言うような……。まあ、いいでしょう。

「こっち~」

 何故か率先して歩き出した空穂さんに連れられて、私たちはどんどん人気のない場所へと移動し始めました。


 空穂さんの先導のもと、連れてこられたのは、私たちの教室から廊下を進んだ先にある空き教室でした。先導するまでもなかったような?

 誰もいない教室。机と椅子が教室の後ろにまとめてありました。誰も座ろうとはしません。各々適当に壁や机に寄りかかったり、ただ立っていたり。

 玉藻先生が薄暗い教室を横切り、カーテンをさっと開けました。お昼の強い日差しが教室を照らし、玉藻先生は目を細めます。何かを強く睨んでいるようです。方角的に昨日のお屋敷でしょうね。

「私は昔、あの家に住んでいたんです」

 玉藻先生が唐突に言いました。真っ先に声を上げたのは、千真さんです。

「玉藻先生ってお嬢様だったの!?」

「はい」

 はいて。もうちょっとこう遠慮とか否定とか。

「すごーい。どのくらいお嬢様なの? 旅客機とか持ってる?」

「あなたは万田さんでしたか。いい質問です。旅客機は持っていません、が、船なら所有しています。今度乗せてあげましょうか?」

 今のどこがいい質問だったのでしょう。そして、恵美寿さんの中でのお金持ちの度合いは、旅客機で測るのでしょうか。ハードルが高過ぎます。船も船ですごいですけれど。この二人に会話の主導権を握られると話が永遠に進まなそうです。

「ああいう屋敷をたくさん所有しているくらいにはお金持ちですね、うちは」

 恵美寿さんから目線を外し、外を眺めて言いました。

 その瞳に映っているのは郷愁でしょうか。

 ……なるほど。いい質問というのは本当のようでした。引っ越しを繰り返してでもいたのでしょうか。お金も持っていたから、手放しもせず、そのまま放置していたと。

「それで? どうして昨日はあのお屋敷にいたのです? 何者なのですか、あなたの一族は」

「……一族なんていう立派なものでもありません」

 玉藻先生が憂いを帯びた瞳を私たちに向けました。

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