第13話 ケイドロ

 ……正直、あんまり考えてなかったんだよね。今何時なんだろう。満足したから帰りたいくらいなんだけど。冷静になると、犯罪者追い詰めてもいいことない気が……。ていうかむしろ危険だよね。なにやってんだろ、私たち。

 どろぼーはいけないんだよ、と諭すか。いやいや、それよりさっさと事情を問い質すべきか――、そんなことしたって、返ってきた答えにどう返せば正解なの?

 今すぐ空穂を止めるべきなんじゃ――、

「知ってる?」

 思考を遮るように、空穂が言った。

「?」

 疑問を浮かべたのは私だけじゃないだろう。何を言い出す気だ? 女も訝しんでいる。あまり刺激になるようなことは今言うべきじゃないだろうに。

「黒揚羽ってね」

 は? 黒揚羽?

 と、そこで私は、真横を通り過ぎていく黒揚羽の存在に気付く。

 どこかから迷い込んできたのか、ひらひらと、ふらふらと、宙を舞っていた。さっき、屋敷の外にいたやつか。窓から迷い込んで来たんだ。それが今、このタイミングになって現れた。

 やがて、蝶は空穂の元へと飛んで行き、その差し出された人差し指へと留まった。

 夕陽に濡れて怪しく全身が輝く少女と、呼吸をするように羽を休める黒の蝶。

 妖怪っていうより、怪異だ。その怪異が続ける。

「黒揚羽って」

 繰り返した。演出としては抜群だ。狙ってやってるんじゃないだろうけど。

「光と闇の境界線を飛ぶんだって――」

 じりと、近寄り、女に頬を寄せ、

「夕方、何もない場所を黒揚羽が舞っていたら」

 微笑みを形作っていた唇がさらなる孤を描く。

 三日月型の半笑いで、瞳はカッと見開いている。

「そこが――」

 ぴとっと頬をくっつけ、少女が耳元で囁いた。

「昼と夜との境界線なんだって」

「あっ」

 ふっ、と女が倒れていくのが見えた。

 女は白目を向いていた。風に揺られて蝶が舞う。

 女が失神してした。

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