第8話 ケイドロ

「ストーップ!」

「ほいさー」


 ズバッと両腕を広げて静止を掛けた私に敬礼付きで従う空穂特派員。本人なりには、きりっとさせてるんだろうけど、まるで全然なってないトロンとふやけた表情に、真剣な眼差しを作って告げた。

「空穂特派員。まずはここの窓から向こうの様子を伺ってみようではないかね」

「イエッサーであります~」

 空穂が敬礼の姿勢を保ちつつ、ひょこっと窓の下から顔を出す。その間、私は廊下の先を見る。あれだけドタドタ走って、こちら側の様子を見に来る様子はない。

「なんにもいないねえ。カーテン閉まってるからちゃんとはわかんないけど」

「ふうむ」

 考えられる可能性はいくつか。

 ガチ幽霊。

 この家の持ち主、或いはその関係者。

 前者はその存在の証明ができないからなんとも言えない。だったら、後者かって言うとそれもそれで疑問が残るのだ。

 空穂の写真はいまいち判然としないが、それでもパッと見た印象だけで語ると、十代から、いっても三十代前半ぐらいの女の人に見える。そんな女の人がこんな荒れ果てた家に一人で来るもんかね? それとも他に誰かいる? でも、複数人で来てるってことなら尚更で、誰かしらすぐに様子を見に来てもおかしくないと思うんだけどね。こんなクソガキどもが好き勝手してればさ。

 それこそ、さっき言ったように、『おーい、糞ガキどもー。勝手に入るんじゃねーぞー』ってな感じで言ってくるのが普通じゃないか。この家の持ち主から怒られてもいいはずだ。

 それがない。だとすると……。

 そこで、一つの可能性に思い当たる。

「千真大佐?」

 考えに耽っていた私に、空穂が敬礼姿勢のまま心配そうに聞いてきた。いつの間にか私は大佐になったらしい。特派員の上役が大佐って。だいぶ勘違いしてる気がするけど。

「よし。敬礼を解け空穂特派員。ここから先は慎重に行くぞ。付いて来い」

「さー!」

 廊下の先へ。先ほど女がいたというそこへ。そろりそろりと歩を進める私たち。心なし身を屈めるようにして。意味はないかもしれないけど、雰囲気は出るからいいのだ。

 ゆっくりと。廊下がぎしりと音を立てないように。

 角を曲がればすぐそこにさっきの場所が、という場所の手前で一旦止まった。後方にいる空穂を確認。ちゃんと付いてきてくれてる。しーっと顔の前で人差し指を立てた。身振り手振りでその先を指し示し、さあ行くぞと親指を立てる。グッ! と向こうも返してくる。

 私と空穂が覗き込むように、同時に、ぬっと顔を出した。


 女の顔があった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る