第4話 秘密基地

 ひとしきり大騒ぎした後に姫ちゃんはなんとか柵を超えることができた。それでも誰もやって来なかったことを思うと、少なくとも今はこの屋敷に誰もいないみたい。

 ……って言っても、この草のボーボー具合を見るに、何十年も放置されていそうだから、本当に誰もいないんだろうけど。

 裏っかわは――、山のせいで日当たりがあんまりない分、草も多少はマシだった。

 建物をぐるりと見てみる。

 唯一開いていたのは、あたしたちが入ってきた山側にある廊下の窓。

 さあ、入ってみようと歩を進めた瞬間、さっと前を何かが横切った。

「猫だ」

 恐らく、先程喧嘩してたであろう片方の、茶トラの猫が入って行った。猫に続いて四人で窓から中を覗いてみる。カーテンが邪魔だったので少しよけた。

「誰もいない」

「ねえ」

 窓のすぐ近くに、細長い花瓶立て兼ちょっとした棚みたいなのが設置されていた。花瓶は埃を被っていて、何も刺さっていない。棚の表面だけ綺麗なのは、猫が足場に何度も使っているせいだろう。

「よっこいしょっと」

「えいさっと」

「ほいさー」

「うう……」

 姫ちゃんがおっかなびっくり窓から入って来るのを横目にあたしと千真ちゃんは中を観察する。扉から差し込むほんの僅かな明かりを頼りに部屋を見渡した。

 物置。異様に狭く感じるのは、積まれた荷物のせいだろう。ダンボールがたくさんあった。

 茶トラが出てったであろう扉に近寄る。開いた隙間から四人で顔を出し、廊下を確認。右を見、左を見る。よしやっぱり誰もいない。

「茶トラ、どっちに消えたんだろうね」

「あっちじゃない?」

 特に答えを期待した質問じゃなかったけど、千真ちゃんが指差した先には階段が見える。ちょうどあたしが見たときには、茶トラの後ろ脚が階上へと消えていくところだった。

「あの……、ここ――、物がこうして置いてあって、さらにカーテンまで引かれているんだったら、ここって空き家じゃないんじゃないですか?」

 たしかに。姫ちゃんの冷静な分析。

 それに千真ちゃんがなんでもなさそうに答えた。片手ではぱちぱちっと、電気のスイッチを押している。付かないみたい。そりゃそうだよね。

「ちょうどいいじゃん。空き家だったら普通は鍵掛かってて入れないよ。持ち主はいるけど、何年も放置してて、鍵開けっぱなんて、よっぽどズボラな持ち主なんだよ。

 逆説的に言えば、こんな小学校の近くにあって、んでもって、我々のような悪ガキどもが出入りするかもしれないこの状況をこうして放置しているわけだから、持ち主はそういう状況や可能性を助長しているとも予想出来て然るべきだとも言えるし、ともすれば責任の一旦は我々ではなく、この家の持ち主にあるわけで、つまり百パーセント向こうが悪いとも言えるよね」

「……悪ガキって自認しているのに、百パーセントはおかしくない?」

「おかしくないよ。何故なら! 我こそが既成概念の破壊神!」

「麗日千真さまー……って、便利な名乗り口上もあったもんだこと」

「で、あーるー。上手くハマったね! いぇいっ!」

「……ぇい」

「ばかなことやってないで。行くよー」

「よ~」

 姫ちゃんが恥ずかしそうに千真ちゃんとハイタッチを交わしていた。


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