第3話 秘密基地
黒く錆びついた門はがっちりと閉ざされていた。こんなでっかい南京錠売ってるんだーってくらいにでっかい南京錠がぶら下がっている。脇にあるポストには、色あせたビラが何枚も突っ込まれている。門の向こう側の敷地は草が伸び放題。人が通った跡も見つけられない。
ほんとだ。ここからでも、かろうじて車庫に車があるのが見えた。
にゃあああ! と、猫同士が喧嘩しているのが聞こえた。濁音付きのにゃあ。猫の出入りだけはありそうだ。
赤い屋根。外壁には蔦が絡まっている。話に聞く通り、どの窓もカーテンが引かれていて、中の様子は分からない。正に幽霊屋敷って感じ。
「どっから入るの? これ」
「こっちー」
先導する千真ちゃんに付いていく。何故か一列。姫ちゃんが慌てて千真ちゃんの後ろに付いていた。両手で千真ちゃんの服の裾をがっちりと握った。腰が引けている。なんだかんだ言って、千真ちゃんに懐いている姫ちゃんである。
この辺は、坂の上の上ってこともあって、この家一軒しかないようだ。なるほどたしかに秘密基地にするにはいいかもしれない。誰に見咎められることもない。
屋敷をぐるりと囲む鉄柵。どこまで行くのだろう。裏門でもあるのかなって思って付いて行くと、
「ここから入れる」
とんでもないところから入ろうとしていた。
坂の上の上。
その背面は山になっていた。だから、山に面した裏側の柵だけ、斜面に建てているのもあってか、埋まるようになっていて、そこだけ塀が低くなっているのだ。あたしたちでもなんとか越えられるくらいに。こっから入ろうってわけだ。ははあ。まあいいけどね。
「恵美寿、そこにある石取ってー」
「ほい」
「わたし無くても行ける~」
「あたしも」
「姫の服、上がり辛いだろうしさ」
「千真ちゃん優しい~」
「よっこいしょっと」
「えいさっと」
「ほいさー」
「躊躇っ!!」
「ほえ?」
姫ちゃんが塀の向こう側で拳を握って叫んでいた。ぽかんとするあたしと千真ちゃんを他所に、空穂ちゃんの呑気な声が響く。
「ちょうちょ?」
「そうそう、さっきとはまた違った種類の黒揚羽――あらこれはカラスアゲハですね珍しいですねこんなところにいるなんて……って、違う! 躊躇! あなたたちには、躊躇いってものがないんですか? 柵を超えて侵入とかちょっとくらいちょうちょしたりしなさい!」
「は?」
意味不明だった。
空穂ちゃんが珍しい虫に「わあ~」とか言いながら、タブレットを構えてパシャリとやっている間に、あたしたちの間に奇妙な沈黙が落ちる。姫ちゃんの顔がだんだん羞恥に染まっていく。何に対する羞恥なんだろう。最後のってひょっとして噛んだのかな。
え、と。そうだ。ツッコミはあたしの役目だ。何か言わないと!
「えと。ごめん姫ちゃん。今の意味わかんなかったからもう一回最初から説明して?」
「やめてください!」
姫ちゃんが真っ赤になった顔を覆った。あれ?
「何故ここで追い打ちかけるかね、この子は……」
「え? なにが? どゆこと? あわかった! 今のノリツッコミってやつでしょ? ね!? もっかい最初っからやって!? 今度はちゃんと返すから!」
「もういい! 分かりました! やめて! 行きます! 行けばいいんでしょう!」
「姫ちゃんはなんでここまで一緒に来といて怒ってるの? あ、届く? 手貸そうか?」
「う、うう……恨みます……恨みますよ、恵美寿さん……」
「あはー。姫ちゃんパンツ丸見え~。ほいパシャリ」
「ぎゃあ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます