第25話 神殿内探索
俺が操作するファイアボールを先行させつつ、真っ暗闇の神殿内を進んだ。
地図によれば、地下神殿は縦長の構造となっている。洞窟の地形に沿って屈曲しつつ、奥へ奥へと伸びていく造りだ。
財宝を示しているらしい×印は一番奥の区画、四角い図形の付近につけられている。その手前に広い空間が存在するところを見るに、おそらくは祭壇だろう。
神殿内は荒れており、すんなりとは歩けなかった。
石床がはがれて軽い段差ができている箇所もある。壁から外れた燭台やかがり火のための金属カゴも床に転がっている。壁や柱がところどころ崩れ、通路上に瓦礫が積み重なっている箇所も珍しくはない。
崩落する危険性がある……とまではいかないだろうが、それでもかなりの損壊具合である。注意して進まなければ破片などにつまづいて転んでしまう可能性がある。
まあそうは言ってもここはもともと神殿だ。入り組んだ構造にはなっていない。基本的には入り口から奥へと向かうだけである。
俺は左手のたいまつで足元を照らしながら、ファイアボール・照明版を操作して進路上を照らす。床はもちろん、周囲の壁や天井などもしっかり確認しながらゆっくりと進む。
「しっかし便利な技ね。ノルのそれ」
神殿内の廊下を歩きながら、エストは背後にいる俺へ横顔を向ける。
「進む前にあらかじめその場所を照らしておけるんだから。おかげでこんな暗闇だってのにずいぶん進みやすくなっているわ」
「その上、普通なら照らせないような高い場所なども確認できますからね。天井に魔物が張りついていても、発見しやすいです」
「まあな。隅なんかもしっかり確認するよ」
「あら、ノルにしてはやる気あるじゃないの。頼りにしてるわ」
あちこちへファイアボールを動かしながら答える俺に、エストは感心したように言った。
当然である。
「任せてくれ。なにしろ、もしメリーの地図が本物ならこれが人生最後の労働となるかも知れないんだ。終わりが見えた時の俺は人並みのやる気を自発的に出す事ができるってところを見せてやる」
「……この男はなんでわざわざ自分への評価を決め顔でひっくり返したがるのかしらね……」
「……念を押して言うけどノル君。財宝見つけても四人で分割だからね?」
「心配すんなメリー。俺が財宝を独り占めするような金の亡者に見えるか?」
「……そうだったね。実際のノル君は、単に寝て暮らしたいだけの人だもんね」
「ああ。分かってくれて嬉しいよ」
「言っとくけど、今のメリーって人を褒める表情してないからね?」
「……みなさん、あまり油断しないで下さいよ」
真面目な声でセイナが言った。
「こんな地下に棲むような魔物は暗闇の中でも目が見えたり、聴覚などが優れたりしていますから。地の利は向こうにあると考えませんと」
「そうだな」
答えつつ、ファイアボールを廊下の曲がり角へと向かわせる。
直後、角の向こう側から飛んできたなにかがファイアボールに直撃。進路上を照らしていた火球が弾け飛び、曲がり角が再び暗闇に閉ざされる。
「……なに? なにが起きたの?」
「……あれは外部からなんらかの衝撃が加えられた結果、魔術がかき消されたん
だ」
戸惑うエストに俺は答える。
「十中八九、魔物の攻撃だ。みんな、戦闘の準備を」
俺が言うのと同時に、角の向こう側からぼんやりした弱い光が差し込む。たいまつなどの炎とは違う、黄系統の光だ。
角から光るなにかが三体ほど飛び出す。
現れたのは、空中に浮かぶ土の塊みたいな魔物達だった。土塊のひび割れた隙間から中心部の光が漏れ出ており、暗闇の中でもはっきりその姿が見える。
「あいつ、"アースエレメント"だね」
盾とメイスを構えながらメリーがつぶやく。
エレメント系の魔物は各属性のマナが意志を持って動き出した、いわば"生きた魔術現象"とでも言うべき存在だ。
目の前にいるのは土属性のアースエレメントである。大きさはだいたい三~四十センチほどと、エレメント系の魔物としては小型の部類に入る。
エレメントは大量のマナが集まった、体の大きな個体ほど手強い。つまりこいつらは大した力を持っていない。油断をしなければ問題なく倒せるだろう。
「そういや私、エレメント系の魔物はぶった切った事なかったわね。ちょうどいい機会だわ」
「気をつけて下さい。そいつらは魔術を使って来る相手――」
セイナが言い終わらない内に、三体のエレメント達から漏れ出る光が強まる。
「下がってっ!!」
メリーが叫び、かばうようにエストの前へ出る。
直後、エレメント達が一斉に魔術を発動。空中に出現したピンポン玉くらいの石が複数、勢いよくこちらへ飛んで来た。
土属性の下位魔術『アースバレット』だ。
たいまつの光の中で、メリーが盾を前方に向けて構えるのが見える。
ガンガンガンッ! ……と、固いもの同士が連続してぶつかり合う音が神殿内に反響する。
結構な衝撃だ。直撃していればかなり痛かっただろう。頭にでも当たればおおごとになっていたかも知れない。
「てやぁ――――っ!!」
しかしメリーは一切ひるむ事なく魔物へ向かう。アースエレメントが立て続けに魔術を発動しようとするのが見えたが、それより早く右手のメイスが振り下ろされる。
土が砕ける重い音。エレメントの体にめり込んだメイスが中央のマナの塊に食い込み、散らす。
先ほど俺のファイアボールがかき消されたのと同様に、アースエレメントはその存在を維持できなくなり、ボロボロと石床の上に崩れ落ちた。
「くたばれやぁぁぁ――――――っ!!」
その直後、エストが
「
残る一体にセイナの水魔術が命中。発動寸前だった敵の魔術を妨害する。
「だっしゃああああ――――――っ!!」
その隙を逃さず、エストはチェーンソーを振るう。両断されたアースエレメントの体が地面に落ち、衝撃でバラバラに四散した。
「……やったか?」
「みたいね。……はぁぁ~……なるほどね~……。刃が触れた瞬間にそこがどんどん崩れていく感じなのね~。ガガガッて来る感じとは一味違う、なかなかに面白い手応えだったわ~……」
「そうか。楽しそうでなによりだ」
吐息混じりの満足そうな講評をたれるエストに一言そう返す。そっちの世界には深入りしないのが吉であろう。
「それより助かったよメリー。ケガはないか?」
「へーきへーき。守りはあたしにどーんと任せて!」
俺の言葉に、メリーは胸を張って答えた。
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