第22話 メリーディエース・ロッチャ
「それはそうと、ノル君達も冒険者だって言ってたよね?」
気を取り直したようにメリーは俺達へ尋ねた。
「ああ」
「だったら、相談したい事があるの。実はあたしね、ちょっと行きたい場所があるんだ」
メリーはまず、部屋に置いてあった共用テーブルを持って来る。それから自身のベッドに置いていたリュックを漁り始める。
リュックから色んなものをごちゃごちゃ引っぱり出してシーツの上に散乱させた末、奥から二枚の古い紙を取り出した。
「――おまたせ。まずはこれを見て欲しいの」
「……それよりも真っ先にお前のリュック周辺の惨状に目が向くんだが……」
「あ、あんま見ないでよね。下着とかも入ってるんだから」
「見ろっつったり見るなっつたり忙しいな……」
「うーるーさーいー」
メリーはそう言いつつ、荷物の陰にちらっと覗いていた
別に見ねえよ。俺はもっと色気あるのが好みだよ。
「と、とにかく! 見るのはこっちなの!」
木製テーブルの上に二枚の紙を広げる。俺達はそれを四方からのぞき込む。
両方とも、なにかの地図だ。
一枚目は外壁に囲まれた町や街道と思しき縦横に伸びる線、森や山などが描かれている。
二枚目はどこかの建物内部の見取り図だ。きっちりした直線で各部屋や廊下が表され、部屋内には柱を表しているらしい黒点が等間隔で記されている。
そのどちらにも、一箇所ずつ×印がつけられていた。
「こっちの地図……ひょっとしてピクシスの周辺じゃない?」
「お、エストちゃん鋭いわね」
エストの指摘通り、主要街道や山の位置など確かにピクシス周辺の地形とおおむね一致している。
つまり、昔のこの辺りの地図なのか。
「……これがピクシス周辺と言う事は、この印は位置的に大昔の地下神殿をしめしている事になりますね」
「知ってるのか?」
「ええ、ピクシス近くの"
"ダンジョン"とは魔物の棲みついた建造物や洞窟などの総称である。
危険な場所ではあるが、そこでしか採取できないものは貴重品として高く売れ
る。また内部の調査が不十分なため、しばしば珍しいお宝や大昔の
「……もしや、二枚目の地図に描かれているのはこの地下神殿の内部なのか?」
「分かって来たみたいね。そう言う事よ。そして、このバッテンのあるところには大昔の人が隠した財宝が眠っているらしいのよ!」
「要するにこれ、宝の地図って訳か」
「そーゆー事! ……どう、みんな!? 明日、ここの宝探しを手伝ってくれな
い!?」
興奮した様子でメリーはテーブルに手をつき、俺達の方へ身を乗り出す。その瞳は財宝への期待と確信とに満ちあふれていた。明日には間違いなく、この手に財宝が握られている――疑いなくそう信じている様子がありありと浮かんでいる表情だった。
……ただ、聞かねばなるまい。
「ひとついいか?」
「なに? ノル君」
「この地図どこで手に入れた?」
「え? 今日ここの宿に来る途中、その辺の露店で買ったの。合わせて銅貨三枚のお手ごろ価格だったわ」
「そうか。……よし信用ならん」
「な……なんでよっ!?」
「出所が怪しすぎるわ! なんで宝の地図がその辺の露店でお手頃価格で売られてんだよ!」
「だ……だけど! 露店のおじさんは間違いなく本物だって言ってたもん! 『これ本物だから。本当だから。おじさん、今までウソついた事なんてないでしょ?』……って!」
「さらに信用度下がったぞオイ! お前もうそれ完っ全に騙されてるよ!」
「もー! ノル君、なんでそんなつまんない事言うのよー! 財宝は夢よ!? ロマンなのよ!? 信じる気持ちが大事なのよ!?」
「なにが悲しくておっさんのヨタ話に夢とロマンを抱かなきゃならねえんだよ!」
こんなもんより『替え麺無料』の張り紙の方がよっぽど夢もロマンもあるわ!
「……ったくこいつは。どうせこの地図だって、おっさんが適当にでっち上げたニセモノだろ」
「……う~ん……そうとも言い切れませんね」
セイナが口をはさんだ。
「この紙の古さは本物ですよ? すっかり変色してますし、古い紙特有のかすかに甘い香りもします。経年劣化を装う細工をほどこすにしても、さすがにここまでは再現し切れません」
「確かに。地図そのものも正確だし」
「む……」
もっともな指摘にエストもうなずく。
まあ、確かにそうかも知れないが……。
「ほらー! セイナちゃんとエストちゃんはこう言ってるよー!?」
「ふふ。できれば私の事は上目遣いで『お姉ちゃん』って呼んで頂ければと」
「……え?」
「そいつの妄言は無視していいぞ。……しかしな。古いってだけじゃ本物とは決めつけられないだろ」
「えー? 絶対本物だよ。もし本物ならお宝が手に入るかも知れないんだよ?」
「そもそもだな。宝がなにかすら分からない――」
「おじさんは『一生働かずに暮らせる金額の財宝が眠ってるってもっぱらのウワサだから』って言ってたけど」
「――エスト、セイナ。俺は明日、この財宝を探しに行こうと思う」
「「…………」」
俺は強い決意を込めてふたりに言った。
「ほら、酒場で言ってただろ? 新たに前衛を加えようって。メリーなんてちょうどいいんじゃないか? 鎧を着て盾を持っているって事は前衛役、そうだよな?」
「うん」
「って訳だ。メリーの実力を確かめるためにも、明日はこの地下神殿へ挑もうぜ」
「……ノル。あんた分かりやすすぎない?」
「『働かずに暮らせる金額』って言葉に釣られたのが丸分かりですよ?」
「そんな事はないさ。決して『さっくり宝が見つかったら、ジジイの資産に頼らずとも働かずに暮らせるぜ』だとか、そんな事は一切考えてないぞ」
「いや、なんでごまかすのか分かんないんだけど。そもそも仮に財宝見つけたら、私達四人で分けるのよ? ひとりで全額いただこうってのはナシよ?」
「それでも、かなりの金額が手に入るかも知れないぞ。のんべんだらりと暮らすのに十分なくらい。俺はその可能性に賭けてみたいんだ」
「ごまかすの止めるの早くないですか?」
「――それにさ、俺思うんだ。信じる気持ちこそがなにより大事なんだって。夢やロマンを信じる尊い気持ちこそが人を動かして行き、やがてボクらの世界を変えていくんじゃないかな。……ハハッ、ちょっとおかしな事言っちゃったかな?」
「ええ。鳥肌が立つくらいに頭がおかしな事を口走ってたわ」
ちょっと滑っちゃったかな? ハハッ。
「……まあ、だからって特に反対する理由もないのよねぇ。私としては魔物を切り刻めればそれでいいし」
「私も、ドワーフの合法的に純真無垢なお口でお願いをされては断れませんし」
「……ねえ。誘っといてなんだけど、三人ともおかしな事言ってない?」
まあ初対面のメリーにとって、このふたりの発言に戸惑うのも無理はない。俺のように素直な心の持ち主ならまだしも、ふたりの性格には思わず突っ込みたくもなるだろう。
「つー訳でメリー。俺達もその宝探し、手伝うぜ」
「……ま、まあなんかおかしな感じだけど……。とにかくみんなありがとー!」
そう言ってメリーは満面の笑顔を浮かべた。
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