第20話 酒場で夕食
クエスト完了後、俺達はそのまま夕食タイムへとなだれ込む事にした。
俺達が利用している宿でも食事は取れるが、残念ながらそこは安宿クオリティ。スカスカのパンとしょぼくれ野菜のスープくらいしか出ない。
それより今回のクエストでは予想以上の報酬が入ったのである。ゴブリン達の魔石を多数と、ゴブリンロードの大きな魔石を――
ふところも暖まった事だし、しっかりした食事でも取ろうか――と言う訳で、冒険者ギルドに併設された酒場へと直行した。こっちの世界の酒場はレストランも兼ねているのである。
「はい、じゃあ今日はお疲れ様~」
「「お疲れ様~」」
あらゆる
ここで、状況にそぐわないまったく無関係な話をしよう。
こちらの世界での成人年齢は『十五歳』である。個人の事情などで前後する場合もあるが、基本的に十五歳になれば男女共に結婚できるし、酒やらギャンブルやらも楽しめるようになる。
と言うかそもそも、こっちでは『お子様は酒飲んじゃダメよ』って法律自体が存在していない。『酒はオトナの飲みもの』的な認識こそあるものの、ルールによって定められている訳ではないのである。
この世界の文明レベルは十分高いと言えるのだが、それでも科学知識や法治感覚などは前世の水準と比べるべくもない。仮に俺が『アルコールの摂取が未成年者の体に及ぼす害うんぬん』と説いたところでイマイチ理解されないか、理解した上で『自己責任、はい論破!』と返されるのがオチだろう。
ここは、そういう世界なのである。
さて、関係ない話はここで終わりだ。
俺はジョッキに口をつけ、なみなみ注がれた泡立つ液体をぐいっと胃の中へ流し込んだ。うめえうめえ。
ノドをたっぷりうるおした後、注文したソーセージにかぶりつく。噛んだ瞬間に熱々の肉汁があふれ出し、
パンもふかふかした食感で、小麦の風味がたっぷり味わえる。サラダの野菜もみずみずしく、シャキッとさわやかな歯ごたえがうれしい。胃も心も満たされる、実に充実した食事だ。
ふたりもそれぞれ夕食を楽しんでいる。エストは串焼き肉をうまそうにほお張
り、セイナは手に取ったスプーンで上品にシチューをすくい取っている。
酒場の喧騒を右に左に聞き流しながら、俺達はしばしの間のんびりと舌つづみを打った。
「――俺達のパーティーには前衛が足りないと思うんだよ」
皿の上の料理も半分ほどに減った辺りで、俺は切り出した。
「いや、前衛なら私がいるじゃないの。……ああ。今の私じゃまだまだ魔物の切り刻み方が足りてないからもっと細切れにしろ、って意味ね」
「ちげえ」
脳のどの部分からそんな解釈出て来たんだ。
……気を取り直し、食べ終えた後の串を指でプラプラもて遊んでいるエストに言う。
「確かにお前は強いし、エルガーレーヴェも頼りになる。が、燃費が悪い。全力で戦える時間がどうしても短い。長期戦は苦手だってお前も言ってただろ?」
「ええ」
「そこをなんとかしたいんだよ。俺達が魔術の準備を始めてから実際に発動できるまでには時間がかかる。そのあいだ、前衛に守ってもらいたいんだよ」
「ノルの言う通りですね。前衛の方が敵の相手をしてくれているからこそ、私達は魔術の使用に専念できますし、エストのかわいいお尻を眺めていられるんです。そう言う事ですよね?」
「ああ、途中まではその通りだ。でもって後半はお前だけだ。サラッと俺を同類扱いすんな」
だからエスト。俺にまで疑惑の目を向けるんじゃない。
「つ、つまりだ。俺達パーティーにもうひとり前衛を加えた方が安定して戦えるようになるから、早い内に新たな前衛を加えておきたい、って事だよ。お前らはどう思う?」
「なるほどね。異論はないわ」
「私もです」
ふたりともうなずいた。
「せっかくだし、どんな奴を仲間に加えた方がいいと思うか話し合っておこうぜ」
「そうね。……私としては戦う時にあんまり動き回らない人だとありがたいわね。
「お前ブレねえな」
立ち回る際にお互いの動きが邪魔し合わない事は大切だ。エストの注文は確かに妥当ではある。理由がおかしい事以外は。
「で、セイナはどうだ?」
「ええと……そうですね……。全体のバランスを考えますと……」
しばらく考え込んで、
「……妹系……ですかね」
「おかしいな。俺の想像してたバランスの話と全然違う内容が返って来たぞ」
俺、戦力の事だと思ってたんだけどな。どうバランスを取れば妹なんて単語が出て来るのかな。
「そう言うノルは? なんか希望はないの?」
「俺か? 俺は特にないぞ。前衛役が増えてくれるだけで十分ありがたいからな。戦力が増えれば、俺も参謀としての役割に専念しやすくなる」
「それが
「気のせいだ。……ただ……」
「ただ?」
「強いて言えば、まともな奴がいい」
俺の言葉をまっすぐ受け止め、ふたりはうなずく。
「そりゃそうよね。素性の怪しい人はさすがにちょっと遠慮しときたいわ」
「ああ見えて冒険者ギルドは登録基準が緩かったりしますからね。"戦闘能力を持った人間を管理しやすくする"と言う目的もありますから、少しくらい背景が後ろ暗い方でも入れてしまうんですよね」
納得しているところ悪いが、多分ふたりが考えている"まとも"と俺の考えている"まとも"は違う。
俺の場合は、例えば雄叫びを上げながらチェーンソー振り回したりとか、床を這いながらローアングル写真撮ったりしたりとか、そう言った奇行に走らない奴の事を指しているのだが。
……いや、こいつらとパーティーを組んだ事に今さらどうこう言うつもりはな
い。ただ、次こそは世間一般常識の
「……まあ、探すにしてもギルドでやった方がいいからな。詳しい事は明日以降にしようぜ」
「そうね」
「ですね」
話を切り上げ、俺達は引き続き夕食を楽しんだ。
食事を終えて酒場を後にした俺達は、そのまま公衆浴場へと向かった。元・日本人として実にありがたい事に、こちらの世界でも入浴はごく一般的な習慣なのである。
一日の疲れと汗を流した後、俺達は浴場を出た。
外はすっかり暗くなっていた。それでも町は街灯と家々の明かりで照らされており、夜道を歩くのに不都合はなかった。
火照った体に夜風が気持ちいい。ふと空を見上げれば、黄金色の三日月と数え切れない星々とが静かに輝いている。
今日も一日、無事に乗り切る事ができた。クエストでは予期せぬ出来事に見舞われはしたものの、結果的には予想外の報酬を得る事に繋がった。災い転じてなんとやら、である。
さすがに今日はこれ以上、おかしなトラブルに巻き込まれる事はないだろう。後はゆっくり休むだけだ。
そう思うと気が楽になる。ああ、早くベッドに寝っ転がりたい。
「――ただいま戻りました。ロッカーのカギ、六十一番から三番までをお願いします」
宿へと戻った俺達は、カウンターの主人に言う。
「ああ、おかえりなさい。少し待ってて下さい」
主人は壁にかかっていたカギを三つ手に取り、俺達へ手渡した。
「そうそう。少し前に新しいお客さんが六番部屋を取られました。
カギを受け取る際に、主人がそう付け加えた。
俺達が利用しているのは相部屋だ。見知らぬ人と同室になるのは珍しくはない。
それより同室の人は冒険者か。ちょうど新たなパーティーメンバーを探すと決めたばかりだし、もし条件が合うならばその人をパーティーに誘ってみるのも悪くないかも知れないな。
……まあ、焦る必要もないか。昼間は色々と大変だったし、そう言う話は後回しにして今夜はのんびりと過ごそう。
そう考えつつ俺達は六番部屋へと向かい、扉を開いた。
「む――っ!! む――っ!! む――っ!! む――っ!!」
開いた扉の向こうから、小柄な少女が縄とカーテンとでグルグル巻きにされていると言う犯罪案件が飛び込んで来た。
のんびり過ごしてる場合じゃねえ。
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