第3話 英国王室

 2022年時点において、世界には20を超える王室が存在している。過去においては、それを上回る数の王室が存在していたわけだが、ヨーロッパの王室のうち、概して 北方の国々では 女王を容認する国が多く、フランス・ドイツなどフランク系の王室では 女王及び女系継承が禁じられていた。

 後者は"サリカ法典"というフランク王国の法を論拠としているが、ここには他国の干渉を嫌ったという側面もあった。14世紀半ばフランス・カペー朝が断絶しているが、その際 イングランド王 エドワード3世が女系の継承権を主張。これにより いわゆる"英仏百年戦争"が始まった。その経緯を踏まえれば、かの戦争が その後の王位継承に与えた影響が推察された。

 余聞だが、神聖ローマ帝国の"女帝"マリア・テレジアは 正確には共同統治者であり、逆に サリカ法典が災いして戦争に発展している。

 フランク系のフランス王国にしても、神聖ローマ帝国・ドイツ帝国にしても、王室は途絶えてしまったが、英国やオランダ・ベルギー、スウェーデンなどの北方の女系を認めた国は、現在も王室が維持されている。

 特に、英国においては 5千番くらいまで王位継承順位が明確化されており、それが 王室が長く安定的に続く所以であることを窺わせた。2013年の王位継承法改正では、2011年10月28日以降に誕生した者の王位継承順位は 男女に関わらず であることが規定され、日本とは異なり 王位継承に関して男子優先でなく男女同権であることが示されていた。

 まぁもっとも、日本において後から皇室に入れるのは女性のみであり、この国の皇室では男性の血が排除され、むしろ女性の方が優遇されているという見解もないではないが…

 それはともかく、そんな英国の王室においても 忌避されていることが全くないかと言えば そうでもない。例えば、王位継承者はキリスト教徒でなければならないし、キリスト教徒でもカトリック信徒は認められない。また、非嫡出子にはそもそも継承権が与えられなかった。

 そして、これはあくまで都市伝説レベルの話だが、ジョンやリチャードなどの名称を嫌っているとの話もささやかれている。前者は言わずと知れた"ジョン欠地王"を指してのことであり、後者は3名,王として名乗りを上げたが、その3名とも子に王位を繋げることができなかった。リチャード2世(プランタジネッド朝)とリチャード3世(ヨーク朝)に至っては王朝の断絶という憂き目に遭っている。 ともまことしやかに囁かれていた。

 (リチャード1世は 十字軍の活躍で知られ、"獅子心王"と称されているが、嫡子はなく 弟を後継者に指名して亡くなった。その弟がジョン欠地王。)

 とは言っても、ジョン欠地王以降にも ジョンという名の王子は幾人か確認されているし、現 英国女王 エリザベス2世の従弟にはグロスター公 リチャード王子がいらっしゃる。これはあくまで噂の類に過ぎなかった。ただ 客観的な事実として、英王 ジョン2世や英王 リチャード4世は 現時点において存在しなかった。

 現在のように 王位継承順位が細かく定まっている時代ならともかく、過去において 王朝の名誉や存立が危ぶまれるような時代には、そのような迷信も避けんとしたのやもしれない。この話と同列に並べて論じてよいかはどうかと思うが、西欧には 被害の大きかったハリケーンの名称を永久欠番とするなどの事例が存在していた。

 あとこぼれ話だが、2012年レスター市中心部の駐車場の地下からリチャード3世のものと思われる遺骨が発見され、翌年 かの王の骨と断定された。その遺骨のY染色体DNAは 同家系の男系の5人の子孫が共通に持つ染色体DNAと一致しなかったが、そのことが現英国王室の血統への疑義にまで発展している。ただ、そのような問題は どの王家にも相通ずるもので、おそらくは 日本においても存在していた。


※明治初期の英国王は ハノーヴァー朝 第6代 ヴィクトリア女王(位1837〜1901)。彼女は結婚して子もなしてるが、日本の女帝は 天皇の未亡人か,でなければ生涯独身を余儀なくされた。その時代において、女王が生涯未婚というのは国際的には遅れているという認識があって、それを嫌って女性天皇を認めなかったという話もある。

 まぁ、井上毅は 英国の女系継承を批判してるっぽいけど。

 あと補足だが、元明女帝は 草壁皇子(皇太子)の未亡人。

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