展覧会1
王家とルネーザンス家が合同で開催する絵画の展示会は、国内全土に広く作品募集の告知をした後、王家の離宮を貸し切って大々的に開催された。
「すごいね。王都南の離宮を二十日間も貸し切りなんて。王家もこのコンクールに本気なんだ」
コンクール初日。
会場を見に来たシルヴィアを、俺は案内していた。
「大きな離宮だよね。王家って、王都の中にいくつも宮殿を持っているんだね」
「ああ、王家が新しい宮殿を建てるときはね、古い宮殿はそのままにして、別の土地にもっと大きな建物を築いてきたのよ。古い宮殿は役所とか図書館とかに利用されるの。街が拡大していくと、たくさんの施設が必要になるしね」
「なるほど……」
そういえば、ヨーロッパの美術館とかも、古い宮殿を利用しているって聞いたことがあったなぁ。そういうものなのか。
コンクール会場には、たくさんの絵画が、人物画や風景画などテーマごとに展示されていた。
「うわぁ。本当にたくさんの絵があるんだねぇ」
バラエティー豊かな作品に、シルヴィアは感嘆の声をあげていた。
「うん。第一回の開催だから、作品を集めるのに苦労したよ」
コンクールは事前に広く告知され、誰でも出品することができた。
といっても、初回で急だったこともあり、締め切りまでに絵を出せなかった人もいたと思う。その分、関係者が知り合いに頼んで出してもらった絵が多かった。
ルネーザンス家は支援する画家のほとんどに、コンクールへの出品を要請していた。
俺も知り合いにコンクールのことを話してまわった。
「シルヴィアもありがとうね。レヴィントン領出身の画家に声をかけてくれて」
「いいのよ。我が領の画家や、趣味で絵を描いている人たちも、自分の作品をたくさんの人に見てもらえるチャンスができて喜んでいたわ」
「そう言ってもらえると嬉しいなぁ。頑張って展示会を開いた甲斐があったよ」
この展示会を開くために、俺は知り合い皆に協力してもらっていた。
バルバストル侯爵は王家と繋がりのある画家に働きかけてくれたし、ローデリック様やワイト公爵も自領の画家に作品を出すように言ってくれた。
他にも、俺はラントペリー商会を通して交流のある画家も誘っていた。中には、俺のファンのような画家もいて、俺の絵を真似たアニメや漫画風の絵を描く若い画家も徐々に出て来ていた。
「これは……国内画家にもこのように斬新な絵を描く人がいるんですなぁ」
「ラントペリー男爵の絵に少し似ていますね」
「ルネーザンス家の影響を受けていない画家も、国内にいたのですねぇ」
などと、珍しい絵を描く若手画家たちは来場客に評価されていた。
コンクール出品作は、ルネーザンス家の推奨する描き方をした絵と、それ以外という感じに大別されていた。
ルネーザンス派以外の作品としては、他に――。
「おぉ、これは美しい、花に包まれた美女の絵ですな」
ジミーさんが描いた花に包まれたマリオン公女の絵も展示されていた。さらに――。
「こちらも、同じ女性がモデルでしょうか……頭に猫のような耳がついていますが……」
猫耳マリオン公女。
「ウサギの耳がついた作品もありますね」
ウサ耳マリオン公女。
「これは、下半身が魚……でしょうか?」
人魚マリオン公女。
「蝶のような羽のついた絵もありますなぁ」
妖精マリオン公女。
「お兄様、いいかげんになさいっ!!」
「ぐ……マリオンちゃん、私は、マリオンちゃんへの愛を糧に、新しい芸術の扉を開くんだっ!」
それらの絵の前で、ファビアン公子がマリオン公女に締め上げられていた。
ファビアン公子はジミーさんの他にも若い画家を何人か巻き込んで、自分好みの新しい絵画を模索しているようだった。
それと――。
「あら、一カ所だけものすごく人口密度が高い。あそこが、アレンの作品の展示場所?」
「あー、うん。俺はこのコンクールの審査員になるんだけど、作品も一作だけ出してるんだ」
「そうなんだ。これだけ人がいると、見るのが大変そうね」
人だかりの外で困っていると、ちょうど、会場スタッフの人が来て、
「――みなさん、立ち止まらないように、ゆっくり移動をお願いします」
と、交通整理を始めてくれた。
俺とシルヴィアはゆっくりと、作品に近づいて鑑賞した。
「あ、この絵って、もしかして私のお父さん?」
「うんうん。レヴィントン前公爵から聞いたお話をもとに描いた絵だよ」
俺の絵は、レヴィントン公爵領で最後の大型魔物が討伐された場面を描いたものだった。
シルヴィアのお父さんが年若い頃に、先々代のレヴィントン公爵とともに領内最後の強敵ベヒーモスと戦った場面だ。
大型の作品を前に、来場客たちは思わず足を止め――。
「なんという迫力」
「情景が生き生きと伝わってきます」
「これは、前レヴィントン公爵でしょうか。なんと凛々しい。私の若い頃の活躍も、このように描いていただきたいものですなぁ」
「それなら、我が家の武勇伝も……」
という感じで、熱心に俺の絵を鑑賞してくれていた。
――よかった、よかった。このコンクールの審査員をする俺の絵がお客さんに不評だったらヤバいもんねぇ。
事前に、俺とコモンドール先生が五作品ずつ絵を選んで講評すると決めていたんだけど、そこで選ばれた絵がこのコンクールの入選作品ということになった。
コンクールの展示は二十日間ほど行われ、最初の一週間は評価をつけずに展示し、七日目に、俺とコモンドール先生が優秀作品を合わせて十作選ぶイベントを開催する。その後、残りの期間は優秀作品に金の印をつけて展示を続けるという流れだ。
ちなみに、コモンドール先生も一作品出していて、そちらもかなりの人だかりを作っていた。
ただ、俺とコモンドール先生は審査員なので、優秀作品の候補にはならない特別枠の展示だった。
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