新風を吹き込め1
ジミーさんと肖像画勝負をしてからしばらく経った頃。
俺は、遊びに来たシルヴィアを、ラントペリー商会の応接間に通していた。
彼女の前には、フルーツや生クリームで飾り付けられたカスタードプリンが置かれていた。
「これが、フランセットちゃんが太り過ぎないようにパフェのかわりに作ったお菓子?」
「うん。プリンアラモードっていうんだ」
最近はパフェが大好きになってしまった妹に、パフェよりはカロリーが低いだろうプリンを、代わりに作ってやっていた。
「プリンアラモード……たしかに、これくらいのサイズなら、パフェほどは太らないわね。でも、これも毎日食べるとちょっとずつ太りそうだけど」
「それも考えてね、フランセットはダンス教室に通わせることにしたんだ。運動していれば、たくさん食べても太りにくくなるだろうし」
「そうなんだ、ダンス教室……」
もともとフランセットは、家庭教師の先生からマナーを教わるついでに最低限の社交ダンスを習っていた。ただ、それだけだと消費カロリーが少ないので、同年代の子どもと一緒に長時間踊れる教室に通うことになった。
「近所のお友達のメアリーちゃんも一緒でね。半分遊びで通っているよ」
「へえ~。フランセットちゃんが踊っているところ、見てみたいなぁ」
「いやぁ、レッスンを見学したけど、変な踊り方だったよ」
俺はフランセットのふにゃふにゃした踊りを思い出して、苦笑いした。
そんな世間話をしている内に日が暮れだして、シルヴィアは家に帰る時間になった。
シルヴィアを馬車まで見送りに出ると、ちょうど、貴族の従者らしき人物が、手紙を持って俺の家に来ていた。
「バルバストル侯爵からのお手紙です」
「ありがとうございます」
俺は綺麗な封筒に入った手紙を受け取った。
――多分、ルネーザンス公爵家の件だろうな。
そう思って何となく手元の封筒をながめていると、シルヴィアがこちらを見ていた。
「バルバストル侯爵と、何かしているの?」
「あ、うん。ちょっとね……」
シルヴィアはこちらを心配するような目つきで見た。
「大丈夫なの?」
「大丈夫って?」
「だって、バルバストル侯爵、ちょっと胡散臭いところがあるじゃない。アレンに厄介事を押し付けていないか心配なのよ」
「胡散臭い……」
侯爵、シルヴィアにそんな風に見られていたのか。
「あの人、優しいアレンに面倒事を持ち込んで、アレンの時間をとって、アレンとずっと一緒にいるんでしょ。ムカつく!」
「え……いや……」
別にバルバストル侯爵は俺と一緒にいたくて面倒事を持ってきているわけではないと思うぞ。
「アレン、バルバストル侯爵に困らされているなら私に言ってよ。私から抗議してやるんだからっ!」
シルヴィアはプンプンと怒っていた。
「んー、たしかにバルバストル侯爵と、とある問題に関わってはいるよ。でも、必要なことだと思うからやってるんだ」
「そうなの?」
「うん。落ち着いたらまた説明するよ」
「待ってるから、ちゃんと教えてよ」
「わかった」
俺はそう約束して、シルヴィアを見送った。
「さて、手紙……」
俺はバルバストル侯爵の手紙を読んだ。
『……ルネーザンス家に動きがあった。君のアドバイスを受けたジミーが画風を変えて描いた絵を見て、ルネーザンス公爵の取り巻きの画家がたいそう怒ったらしい。君を名指しで呼びだしてきた。明日、迎えをやるから、一緒に公爵邸に来てほしい……』
「うわっ……」
いよいよ、ルネーザンス公爵と対面か。
バルバストル侯爵が黒い笑みを浮かべているのが目に浮かぶなぁ。年配の人と交渉するのは大変そうなんだけど。
シルヴィアにちゃんと説明できるように、丸く収まるといいなぁ。
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