海辺の村1

 レヴィントン領西の漁村。

 見渡す限りの青い海原に、レヴィントン家の軍船一隻と、民間の漁船が七隻ほど浮かんでいた。


 夏の終わり、この付近の海には、大量の魚が集まるらしい。ここは良い漁場だ。でも、餌を求めて魔物までやってきてしまうというのが、異世界ならではの難点だった。

 そこで、レヴィントン領の毎年の恒例行事が、クラーケン退治なのである。


 軍船の甲板には、ビキニアーマーを着込んだ軍人がずらりと整列していた。


 ――って、なぜかビキニアーマーと呼ばれているだけの海パン集団だけどね。


 この異世界、男の乳首もダメというユー〇ューブみたいなルールがあるから、男性も胸を隠す水着を着る。だから、胸と腰をわずかに覆うツーピース型の水着ってところは一緒になるんだけど、男性用は呼び名を分けて欲しいよね。


「ようこそ、ラントペリー男爵。お噂はかねがね伺っております。お会いできて光栄です」


 甲板にあがると、ビキニアーマー姿の見るからに歴戦の戦士から声がかかった。彼がこの船の船長さんらしい。


「今日はお仕事にお邪魔してすみません。よろしくお願いします」

「いえ、天才画家に我々の仕事ぶりを見ていただけるとは光栄です。乗組員一同張り切っていますよ」


 船長さんはそう言って豪快に笑った。

 ボディビルダーのような腹筋がまぶしい。


「今日は私も参戦します。よろしくお願いしますね、船長」


 シルヴィアもビキニアーマー姿で参加していた。

 他にも、何人かビキニアーマーを着た女性がいて、目の保養だった。


 船長さんとの挨拶が終わると、乗組員さんたちがこちらに話しかけてきた。


「今日はよろしくお願いしますね」


 俺が挨拶すると、


「はい! 頑張ってカッコイイところを見せるので、ぜひ、画題に使ってやってください!」


 と、若い水兵さんが前のめりに言ってきた。その彼の頭を、ベテラン水兵さんがペシリと叩く。


「いやあ、すみません。お嬢様のビキニアーマー姿の絵が王都で超話題になったじゃないですか。あれのせいで、次は俺たちも描かれたいって夢見てる奴が多いんですよ」

「いえいえ。貴重なものを見せていただきますし、描かせていただきますよ」


 という感じで、俺はまたビキニアーマーの絵を描くことになるのだった。


 ――男ビキニアーマーかぁ。でも、筋肉を自由自在に描けるのは嬉しいんだよなぁ。


 前世、絵の下手な俺にとって、肌の露出の多い男キャラを描くのは鬼門だった。

 筋肉を描くのって難しいのだ。かなり複雑だし。ガチで筋肉を描きたい人は解剖学にまで手を出しているって聞いたことがある。

 ビキニアーマーで戦士の筋肉をたっぷり見られるし、ここは開き直って筋肉を観察しておこう。〈緻密な描写力〉を使えば、この先リアルな筋肉描き放題になるだろうしね。



 レヴィントン領警備軍と現地の漁師さんの連合軍八隻は、漁村の沖で巨大なクラーケンを発見した。


「でっかいイカ……」

「安心して。クラーケン討伐は慣れたものよ。あれは海に浮かぶ大きな食料よ!」


 シルヴィアはそう言って、甲板から海に飛び込むと、以前に披露してくれた海上走行魔法でクラーケンに駆け寄っていった。


「はっ!」


 そのまま、彼女は剣でクラーケンの脚を一本切り落としてみせた。

 クラーケンは残りの脚で、彼女に攻撃を仕掛ける。


「危ない!」


 だが、その頃には他の兵士たちがクラーケンに詰め寄っており、彼らによって残りの脚も切断されることとなるのだった。


「脚が海に落ちた! 急げ、回収だっ」


 ついてきていた漁師さんたちが、切り落とされた脚を拾っていく。


「ふんっ、食らえっ!」


 先ほど挨拶した船長さんは、クラーケンの身体に魔力で強化したパンチを連打していた。


 やがて、力尽きたクラーケンが海に浮かぶ。

 漁師さんがそれにロープをかけて、陸へ引いていった。


「雑魚も残らず回収するぞ。こいつらも貴重な収入源だからな」


 クラーケンは普通サイズのイカを眷属としてたくさん連れていた。それらは、次々に漁師さんの網にかかっていった。


「討伐完了。今日はこれで引き上げるぞ」


 船長さんが言うと、軍船を先頭に、八隻の船は漁港へと戻るのだった。


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