海辺の村2

 陸に戻ると、俺の家族が出迎えてくれた。


「お兄ちゃん、おかえり~。クラーケン、大きいね」


 港で、フランセットが駆け寄ってくる。


「そうだね。これから、アレを食べるんだよ」

「ええ~」


 妹は目をまん丸にして、クラーケンの白い巨体を眺めていた。

 俺は両親と妹に、先ほどまで見てきたクラーケン討伐の様子を話した。


 漁師さんたちは、近くの空き地でクラーケンの脚を豪快に焼き始めた。

 しばらくして、俺は巨大なクラーケンの脚の串焼きを受け取った。


「はい、男爵、まずは丸かじりで!」

「ええっ……」

「お兄ちゃん、これ、噛みきれないよ。すごい弾力! でも肉汁が出てきて美味しいよ」


 フランセットは、領主城でのマナーはどこへいったんだというくらい、豪快にクラーケンに噛り付いていた。


 それから、地元のお母さんたちが手慣れた手つきで、次々とイカ料理を出してくれた。


「私も手伝いましたよ、坊ちゃん。たくさん食べてくださいね」


 ダニエルも地元民に混ざって、魚介類の扱い方を学習していた。


「――! このイカフライ、絶妙の揚げ加減だな」

「それ、男爵様が連れてきたコックさんが揚げたんですよ。私らも試食してびっくりしました」


 ダニエルはイカフライの揚げ方をマスターしたらしい。ついでにアジフライとか天ぷらとかも覚えてもらいたいなぁ。


「フライもスープも、どれも美味しいねぇ」

「良かった、気に入ってくれて」


 シルヴィアも一緒に、ニコニコと食べていった。だが――。


「ここに出てるのって、全部クラーケン? 小さいイカも獲ってなかったっけ?」

「ああ、今食べるのはクラーケンの方ね。小さいのは干物にして、時期をずらして売る商品になるのよ」

「ふむふむ……」


 俺は鞄から、領主城で貰った米を取り出した。


「干物用の小さいイカ、いくつか譲ってもらえるかな?」


 せっかくご飯とイカがあるのだ。〝いかめし〟とか作れないかな。

 〈神眼〉でレシピを出して――。


《いかめし

 作り方は、イカから足とわたを取り除き、イカの胴にもち米と、好みでイカの足や椎茸などを味付けして詰める。鍋に砂糖・しょうゆ・酒・みりんなどの調味料とイカを入れ、水にひたして加熱する》


「ダニエル、こんなの作って欲しいんだけど……」


 俺は〈メモ帳〉のレシピを紙に書き写して、米とともにダニエルに丸投げした。


「坊ちゃん、もち米って何ですか。調味料は……ないのもあるけど以前に坊ちゃんから説明されたことがあるから……まあ、やってみます」


 ダニエルに無茶ぶりして、俺はのんびり家族やシルヴィアとご飯を食べながら待った。




 しばらくして、ダニエルがいかめしもどきを持ってきた。


「流石ダニエル、それっぽいの作れてる!」

「坊ちゃんの無理難題にも慣れてきましたからねぇ。調理場のおばちゃんに魚醤を借りて作ってみましたよ」


 ダニエルのいかめしは、前世のものとズレはあるのだけど、ダニエルだけにちゃんと美味しい味に調えられていた。


「うん、美味しい。ありがとう、ダニエル」

「お気に召して良かったです。それじゃあ、たくさん作って皆さんに配りますね」

「よろしく!」


 俺はダニエルに追加を頼んでいる間、先に受け取った分のいかめしを切り分けて、皆と食べた。



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