幕間2 天才画家の村おこし
ビキニアーマー1
以前に俺が男爵になったとき、俺は海沿いの田舎に屋敷を一つ購入していた。
その屋敷を改装するついでに、俺は壁中に絵を描いて、落書き部屋みたいにした。すると、俺の絵を見に、お客さんがたくさん訪れるようになった。
そんな俺のカントリーハウスに、その日、シルヴィアが遊びに来ていた。
春の暖かい昼下がり。
俺はラントペリー家のカントリーハウス近くの海岸沿いを、シルヴィアと一緒に歩いていた。
「白い砂浜がずーっと続いている。アレンの別荘の周りって、景色が素敵ね」
歩きながら、シルヴィアは気持ちよさそうに伸びをした。
「ありがとう。この砂浜、良い海水浴場になると思うんだ」
どこまでも続く砂浜と、透明度の高い南向きの海。前世であれば、格好のリゾート開発地になっていただろう。夏が来たら、ここで泳いでみるのもよいかもしれない。
「海水浴?」
シルヴィアはきょとんとした顔で聞き返した。
「海で泳いで遊ぶんだよ。フランセットとか連れてきてさ、夏に泳いだら、楽しそうだろ?」
「え? 泳いで遊ぶ?」
シルヴィアは訝しげな顔をした。
あれ? この世界の人って、夏に海水浴とかしないのか?
「いくら国内の大型魔物が討伐されたと言っても、不用意に海で泳ぐのは危険よ。稀にとはいえ、海の魔物は遠くから移動してくることもあるし」
「ああー」
そうだ。身の回りが平和だから忘れがちだけど、この世界、剣と魔法のファンタジー要素がけっこうあるのだった。
「まあ、たしかに私は海のある領地で育ったから、海上走行で海を散歩することもできるけど。そんな気楽にするものじゃないよ」
……ん?
「海上走行って、何?」
「水魔法で海の上を走るんだよ」
「泳ぐんじゃなしに?」
「泳いでいたら、海の魔物とは戦えないでしょ」
「ええー?」
「水魔法で水面に立って、海の魔物と殴り合うの。重い武器は浮力を出すのに魔力を消費するから、水上戦は拳闘士が強いんだよ~」
「そ……そうなんだ」
俺の転生した異世界には、俺が街から出ない画家なんかになったせいで全く使われることのなかったファンタジー設定が、実はあったらしい。
「海上走行のやり方は……で、水魔法で浮力を調整するのよ。……スピードが必要なときは足から水魔法を噴射して加速して……」
水魔法、俺は敵に水をかけてウォータージェットみたいに水圧で攻撃するんだと思っていたけど、ここでは水上で移動するために使われる魔法だった。
「レヴィントン公爵領は海に面しているから、領内の軍備の多くは、水上戦闘用なのよ。私は陸戦の方が得意だけど、水上の訓練もしてきたわ。良いビキニアーマーも作ってもらったし」
「ビ……ビキニアーマー!?」
聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。
「そう。海上だと、浮力を考慮して、重い物は身につけられないでしょ。軽くて防御力があって、いざというときは泳げて……そういうのを色々計算して作られた最新兵器なのよ」
「最新兵器ビキニアーマー……」
「ロア王国って、陸の大型魔物の討伐が終わったでしょ。今後は戦力を海に回して、海洋進出していくことになると思うの。今の航海って、魔物を避けるために限られたルートでしか移動できないの。そこで、護衛艦つきの大規模船団で最短ルートの交易をしたら、莫大な利益が出るかもしれない。ビキニアーマーは、今後のレヴィントン領の成長戦略の要でもあるわ」
「成長戦略の要ビキニアーマー……」
「まあ、ビキニアーマーって、露出が多くてちょっと着るのが恥ずかしくはあるのだけど、合理的に考えるとあれが一番動きやすさと防御力を兼ね備えているから」
「合理的に考えてのビキニアーマー……」
えーっと、ビキニアーマーって、俺の想像しているビキニアーマーなのか?
「レヴィントン領はビキニアーマーの研究開発を進めていてね。高性能で評判なのよ。王国軍にも提供しているし」
「……ん? ちょっと待って。軍人が皆ビキニアーマーを着るの? 軍は男性の方が多いよね」
「うん。それがどうかしたの?」
「男性用の装備は?」
「ビキニアーマー」
「…………???」
「アレン、ビキニアーマーに興味があるの?」
「え? あー……ないと言えば嘘になりますが……」
「なら良かった。ちょうど、この辺も海沿いだし、アレンの別荘に行くついでに、近くの貴族家にビキニアーマーの売り込みをしようと思って、サンプルを持ってきていたんだ」
「サンプル?」
「うん。私のサイズのもあるはずだし、お付きの使用人に出してもらってくるわ」
シルヴィアはそう言うと、俺の別荘に向かってパタパタと走っていった。
「うわ~……楽しみだな~」
鬼が出るか蛇が出るか。
シルヴィアのビキニアーマー、前世と同じビキニアーマーだといいなぁ。
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