ノルト王宮の天井画4

 俺が〈神眼〉で得た魔物の情報を渡したことで、シルヴィアは無事に魔物討伐を乗り切った。

 五日ほどして戻ってきたシルヴィアを、俺はラントペリー本家の屋敷に招待していた。


「いらっしゃいませ、レヴィントン公爵様」


 本家の従業員たちが彼女を迎える。


「ここがラントペリー商会の本家なのね。ロア王国のお店では、いつも素敵なドレスを作ってもらっているの。本店も見られて嬉しいわ」

「ありがとうございます、公爵様」


 そんな感じでグラース伯父さんとお爺ちゃんが挨拶して、シルヴィアを店に迎え入れた。

 たくさんのドレスが並ぶ店内。見栄えのするディスプレイの奥には、お客様のサイズを測ったり、商談したりするための部屋がいくつかあった。


 その部屋の一つに、シルヴィアを通す。

 部屋には、一着のドレスが置かれていた。

 薄ピンクの小さな花びらが細かく描かれた生地。桜の絵付けドレスだ。


「アレン、これ……?」

「お土産、持って帰るって言ってたでしょ」


 シルヴィア用の絵付けドレス。最初に作ったものは、この国の王妃様の手に渡っちゃったけど、その後別のドレスを作り直していた。


「え? なにこれ。見たことのない柄の生地。光沢がすごい……え? 描いてる?」

「ふふふ……」


 期待通りの彼女の反応を、俺はニマニマしながら見ていた。


「長く滞在しちゃったから、他にもいろいろ手に入ったんだよ」


 それから、俺はノルト王国に滞在中に集めた物を、シルヴィアに見せていった。


 たまたま見かけて、一目惚れした生地。

 機織りの職人さんと一緒に柄を考えた織物。

 それに、王宮の改装で報酬がたくさん出たから、貴重な顔料も爆買いしていた。


「ロア王国に戻ったら、シルヴィアのドレスをたくさん作って、たくさん絵も描くんだ」


 シルヴィアに話しているだけで、俺はなんだかとても楽しい気分になってきた。


「アレン、荷物がいっぱいになるよ」


 シルヴィアがクスクスと笑う。


「そうだね。ノルト王宮からもお土産を貰ったし。シルヴィアが魔物討伐に出て手に入れた素材とか、持って帰ったら、レヴィントン領の職人さんが喜びそうだね」

「そうね。たくさん馬車を連ねて帰ることになりそうだわ」

「うん。いっぱい持って帰ろう」


 俺はシルヴィアにほほ笑んで言った。




 ノルト王宮別館に戻るシルヴィアを一旦見送る。

 彼女が乗った馬車が見えなくなった頃、後ろから声を掛けられた。


「すっごく綺麗なお姫様だったね」


 振り返ると、ハンナが立っていた。彼女は俺に近づくと、


「明後日に、ここを発つんだよね?」


 と言った。


「うん。予定よりだいぶ長居しちゃった。お世話になったね」

「それはこっちの台詞よ。王妃様のドレスの件なんて、アレンがいなかったらと思うとゾッとするわ。それに、宮殿の天井画とタペストリー、大評判じゃない」

「ああ、大仕事だったからね。良い評価がもらえてホッとしたよ」

「ふふ。一族から天才画家が出て誇りに思うわ。これからもよろしくね、アレン」

「こちらこそ。末永く協力してラントペリー商会を発展させていこう」

「うん。アレンの今の言葉、お爺ちゃんが聞いたら喜ぶよ」


 俺はハンナと一緒に、家の扉をくぐった。


「帰りの移動、また長旅になるね」

「そうだね。無事に家に帰り着いたら、手紙を書くよ」

「ありがと。私も手紙をたくさん書くわ。それから、今度は、私が向こうに会いに行こうかな」

「ハンナが?」

「うん。私も外国に行ってみたいし。そのときはよろしく」

「わかった。待ってるよ」

「ふふふ……荷造り、手伝うよ」

「ありがとう、ハンナ」


 俺はたくさんのお土産を持って、半年ほど滞在したノルト王国から、家へと帰るのだった。

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