東の王2

 建国祭の三日後、俺はノルト国王の肖像画を描くために王宮に向かった。

 国王は多忙らしく、絵のためだけに時間を割くことはできなかった。俺は執務室で書類仕事をする王の近くでしばらくスケッチをした後、持ち帰ってちゃんとした肖像画に仕上げることになった。


 スケッチブックに何パターンかの王の絵を描いた後、俺は案内役の文官に連れられて、王宮の中を見学してまわった。


「どこか相応しい場所を背景にしていただきます」

「はい」

「では、次は外国の大使や地方貴族を迎える謁見の間をお見せしましょう」


 謁見の間に向かう廊下にはふかふかの赤絨毯が敷かれ、左右の壁に歴代ノルト国王の肖像画が飾られていた。


「陛下はここに飾る絵を望まれています」


 と、案内の人に言われる。

 旅の画家に結構なものを期待しているんだなぁ。


「……ご期待に沿えるように努力します」


 飾られた肖像画はどれも少し劇画調というか、迫力重視な感じだった。


「重厚感のある肖像画が多いんですね」


「はい。謁見に訪れた者に、国王の偉大さを見せるのが肖像画の役目ですから。陛下は以前にロア王国のエスメラルダ女王の肖像画の話を耳にされて、今回依頼されたそうです」

「なるほど」

「肖像画の目的は、エスメラルダ女王を描かれたときとほとんど同じになるでしょう。我が国は広く……少々口が悪くなりますが、王家を舐めた田舎貴族が参内することも多々あります。そうした者たちに、歴史ある王家の凄さを見せつけるために、こうして歴代の肖像画を並べているのです」


 王様はすごいんだぞと見た人にアピールする肖像画か。ノルト国王はイケメンだし、そんなに難しくもないかな。


「実は、少々気がかりなことがあります」


 と、案内役の貴族は声を潜めて俺に言った。


「何でしょう?」

「陛下の肖像画の横に並ぶ、先代国王の肖像画こちらなのですが……」


 と言って、案内役は一枚の肖像画を示した。

 そこには、かなり背が高く筋骨隆々とした男性が立っていた。


「その隣がヨキアム陛下の肖像画です。ラントペリー男爵の作品がより優れていた場合は、こちらと置き換える予定です」


 現在飾られているヨキアム陛下の肖像画は、本人そっくりではあるが、少し貧相に見えていた。


 ……ヨキアム陛下は、顔立ちは整っているけど、身長は平均より低めだったか。


 ヨキアム陛下は傍系で、先代王とあまり似ていない。それまでの王は、体格の大きい人が続いていたようだ。そこへ急にヨキアム陛下の肖像画が来ると、スケールダウンした印象を持たれるかもしれない。


「この絵を、もっと威厳のあるものに置き換えたいのですね」

「そういうことです。ですが、誇張しすぎや嘘は極力避けてください。それぞれの王に近い姿を後世に残すための肖像画ですので」

「……考えてみます」


 俺は課題を持ち帰って、ラントペリー本家で肖像画の制作に取り掛かった。

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