埋もれた才能5
マクレゴン公爵邸。
ローデリック公子の前に改良されたコーヒーメーカーがお披露目されていた。
魔力を流すと自動でコーヒーを注ぐポットを持っているのは、アニメ風の美少女フィギュアだ。
「ふわぁ、完璧だよ。ありがとう、ラントペリー氏! ラントペリー氏とルパーカ君の尽力で、理想のコーヒーメーカーが作れたよ」
ルパーカさんがスライム粘土で形を作り、俺がデザインと着色を担当した美少女フィギュアは、コーヒーメーカーの上でほほ笑みながらポットを傾けていた。
「はあ……素晴らしい。この反りの強い腰のラインや指先の繊細さ、華奢な女の子の描写が完璧だ。ちょっと首を傾げた仕草も可愛い」
ローデリック様は瞳をキラキラさせて人形に見惚れていた。
「ラントペリー氏の圧倒的なデザインセンスと、それを忠実に再現できるルパーカ君の技術が組み合わさって、最高の人形ができたね。二人ともありがとう。僕のコレクションにまた歴史に残る名品が増えてとっても嬉しいよ」
「お気に召す物が作れて私たちも嬉しいです」
「うんうん。僕、昔は機械や魔道具の設計図を書くことにしか興味がなかったんだけど、ラントペリー氏に出会って、たくさんの素晴らしい物を知ることができたよ。名画で家のギャラリーを満たして、版画も集めて……それから、妻の影響で家に巨大なワインセラーを作って……それで、今度は素晴らしい人形にも出会えた。今後は人形のための展示部屋も作って、ガラスケースを用意して、照明魔法で演出できるようにして、それから、それから……あー、とにかく、僕、これからは人形もたくさん欲しい! 集める!」
お茶くみ人形フィギュアを気に入ったローデリック様は、俺たちにたくさんの報酬と、さらには追加の注文までくれたのだった。
マクレゴン公爵邸からの帰りの馬車の中。
「公子様に気に入っていただいて良かったですね、アレン様」
「そうですね。これで、ルパーカさんの貯金を増やせて一安心です」
「あ……あの、オラ、貰いすぎですよ。こんな大金、見たこともない」
「ルパーカさんが頑張った成果ですよ。独立のための大事な資金でもあります」
「独立……そうだ、オラ、シルヴィア様にも迷惑をかけているんだった」
今のルパーカさんはシルヴィアのところに居候しているけど、いずれは出る必要がある。
彼はレヴィントン家で庭仕事や掃除などを手伝っているそうだから、そのまま使用人として雇う案もあったんだけど、シルヴィアが言うには、ルパーカさんの土魔法を活かせない使用人になるのは勿体ないらしい。彼の土魔法は物作りにすごく使えるから。
「まあ、もうしばらくはシルヴィア様のところで貯金を続けて、これからどうするかを決めると良いと思いますよ。ローデリック様から追加の人形の注文も来ましたし、当分は人形の制作だけでも暮らしていけそうですが。でも、材料のスライム粘土は高価なものだから、無駄遣いには注意してくださいね」
「は……はい。アレン様、本当にありがとうございました。実は、あの後、オラの元いたパーティーの噂を聞いたんですけど、依頼に失敗して解散したらしいんです。パーティーリーダーだったクロードは大怪我した上に違約金の支払いまで必要になって、借金取りに追われているとか。オラは、結果的に紙一重でパーティーを出ることができていました」
「それは、危なかったですね」
「はい。それだけじゃなく、実は、オラがいた村も、オラたちが出た後、土産物作りがうまくいかなくなったそうで。商人に不良品を納品して、詐欺で訴えられたとか。それで信用をなくして、お金が稼げず苦労しているらしいです」
「……へえー」
「オラもいつまた大変なことになるか分かりませんから、しっかり貯金して、土魔法の腕も磨いていきたいです。あの、アレン様、スライム粘土、今回の報酬の半額分くらい買わせてもらえませんか?」
「ああ、いいですよ」
スライム粘土は、足りなくなればヤーマダさんや彼の仲間の錬金術師に注文していた。
「それと、顔料も欲しいです」
「顔料? ああ、そうですね」
ローデリック様に納品したフィギュアは、形をルパーカさんが作って、着色は俺がやっていた。だが、ルパーカさんが独立するには、着色も自分でできた方がいい。
「お忙しいアレン様に、今後の人形全部の着色をしてもらうわけにいかないですし。オラ、一人で人形を完成できるように練習します」
「そうですね。顔料の調整も、土魔法が得意なルパーカさんなら覚えられると思いますよ。アトリエに戻ったら教えますね」
「ありがとうございます、アレン様。オラ、たくさん練習して、魅力的な人形を作れるように頑張ります!」
決意を込めてルパーカさんは言った。
ふうむ。今のところうまくいっているけど、スライム粘土の仕入れとか、報酬とか、しばらく俺も見ておいた方がいいかもな。
なんか、ルパーカさんに不当な扱いをすると、後でもの凄いしっぺ返しが起こりそうな気がするし。
変なフラグを立てないように気をつけようと、俺は思うのだった。
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