彼女の好きな人形1

 ローデリック様にお茶くみ人形を納品した数日後。

 俺はシルヴィアに、レヴィントン公爵邸に呼びだされていた。


「……アレンに、確認してもらいたいことがあるの」


 いつになく深刻な顔でシルヴィアは言った。

 どうしたんだろう?

 シルヴィアは俺を、いつもの部屋ではなく、普段行かない使用人エリアへと連れていった。



「ルパーカさん?」


 使用人エリアの部屋の一つの前に、ルパーカさんが立っていた。


「アレン様……」


 ルパーカさんはとても気まずそうな顔をしていた。


「ここは?」

「ルパーカさんの部屋よ」

「ルパーカさんの……」


 俺はふと嫌な予感がした。


 ――ルパーカさん、フィギュアの制作を頑張るって言ってたなぁ。


「隣室に住んでいるメイドが彼の様子を見に行って発覚したんだけど……」


 と言いながら、シルヴィアはルパーカさんの部屋の扉を開いた。


 そこには、たくさんのフィギュアが置かれていた。

 どれも、見事な出来だ。


 生き生きとした可愛い美少女たち――。

 スカートのちょっと短い美少女――。

 ロリっぽい美少女――。

 巨乳美少女――。


「……どういうことか説明してくれるかしら、アレン」


 ――ふぎゃあああああああっ!!!


 シルヴィアが不審がった原因の大きな部分は、美少女フィギュアを発見されたルパーカさんが何も説明できずにアタフタするばかりになったためだった。

 彼の態度が、フィギュアをよりヤバい物に見せてしまったのである。


 俺はこれまでの経緯をシルヴィアに説明して、フィギュアがルパーカさんの商売のタネになっていることを理解してもらった。


「――そう。ローデリック様の注文品を作るための練習だったのね」


 シルヴィアは何とか納得してくれたものの、まだ少し嫌そうだった。


「アレンたちが新しい芸術品を作って、それをローデリック様が保護しようとされているのは理解できたわ。……でも、その人形、私はちょっと苦手かも」


 美少女フィギュアを見るシルヴィアは、ちょっと引いている様子だった。


「ご……ごめんね。シルヴィアの家でこんなの作って」

「いいのよ。好みは人それぞれだし……」


 とは言うものの、ルパーカさんの引っ越しは早めにした方がいいかもしれないなぁ。美少女フィギュアにドン引きする女性がいるのは、仕方ないような気もするし。


 ――いや、でも、これでフィギュア全てを否定されるのは悲しいなぁ。


 俺は同じくしょんぼりした顔のルパーカさんの肩にポンと手を置いた。


「ルパーカさん、俺からも、新しい注文をしたいんですけど、いいですか?」

「へ? あ、はい……」


 俺はルパーカさんの耳元で囁く。


「このままじゃ終われない。ルパーカさんも、そう思いますよね」

「……へ?」


 シルヴィアにもフィギュアの魅力を見せてやる!

 俺はそう決意して、行動を開始した。

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